第4話

「さて、アニマの収集量はどんな調子だ? 随分足りないそうだが。」


上司と思われる査察官が、腰を下ろして問いかける。


「はい。そのとおりです。必要量は十分なのですが。「あれ」がもうもたないそうです。」


「やはりそうか。エネルギーを生み出す前に「あれ」の寿命がきてしまうというわけだな……。前回の選定は、完全に失敗だな。」


部下の査察官は、上司に同調してやれやれですねと相槌を打つ。


「では、次の査察の予定をすぐ調整しましょう。一刻を争いますからね。」


「たのむ。このエリアの構造は把握できたからな、爆発に巻き込まれては敵わん。」


「了解しました。」




上司の査察官は、椅子から腰を上げるとうーんと伸びをした。


「出るとするか。湿っぽくて敵わん。アントどもははよくこんな場所で暮らせるものだ、」


部下の査察官がヘコヘコ首を振る。二人とも扉のほうへ向かって歩き出した。話は終わったようだ。



査察官たちの会話に気を取られていたせいで気付けずにいたが、僕はロッカーの中の埃を胸いっぱいに吸い過ぎていた。たまらず咳こんでしまった。


「誰だ?!」


査察官たちが物音に気づき、扉のところからひるがえって僕を血眼で見つけようとしている。


必死の願いも届かず、あっさりと、上司の査察官が僕の隠れているロッカーに手をかける。


これまでか。終わった……。



「おや、あなた方は、此処で何してらっしゃるのですか?」


よく聞くしゃがれた声が、狭い室内に響き渡る。


「これはこれは、査察官さま。このような汚い場所でどうされましたかな? 」


「別に貴様には関係ないわ、場長よ。そんなことより、今の私たちの会話を聞いていたのか? 」


キスするんじゃないかというくらいに、上司の査察官が、場長と呼ばれた男に顔を近づけ威嚇する。


「はて、もう一度言っていただけませぬか? 最近耳が遠くてよく聞こえませんのじゃ。」


査察官たちは、顔を見合わせると、もう一度場長のほうを向いた。


「なんでもないわ。査察の一環だ。どけ! 」


そう言って査察官たちは、ドタドタと洗い足音を立てて言ってしまった。助かったことに安堵していると、暖かく柔らかい声で場長、ゼン爺が僕の名前を呼んだ。


「ケイト、いるんじゃろ? 出て来なさい。」






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