第13話

「お、珍しい、鋳造に女がいるじゃねえか」

「ああ、あれ、うちの新入り、大卒らしい」

「大卒? なんで大卒が現場にいるんだい? 実習か?」

「いや、本社で使えないから、うちで引き取ったらしいぞ」

「そうなのか、仕事は出来んのか?」

「分からん、入ったばかりだし、でも糞便で鋳造を止めた大物だ、彼女は将来性がある」

「ほう、あの女がか…、念のため手を合わせておこう、ナンマンダブ、ナンマンダブ」

以後、白鳥の存在は、当然のことながら、岐阜工場中に知れ渡り、一躍、時の人となった。

後に白鳥は『糞漏らしのアンジョリーナ』として、社内で伝説的な存在となった。鋳鉄溶炉に漏らした大便を投げ入れ隠そうとした事実を、社員全員が知っているという異常な事態。

無理もない。ここ、岐阜工場でも、女性従業員を積極採用しているが、事務作業が主であり、現場作業を行うことは少ない。あったとしても軽作業が中心で、鋳造のような超重労働工程に配属されるケースは稀だ。

そんな激務工程に鳴り物入りで配属された大卒社員が、配属後、僅か三週間足らずで大便を失禁したかと思いきや、それを溶炉に投げ込み、三日間のドカ停を引き起こした上、多大な損失を与えたというのだから、噂にならない方が不思議である。

白鳥はその後、三年に渡って、クソ漏らしの汚名を背負い続けながら、工場の一部として粛々と働き、心身を成長させていくのである。

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