第8話

「先生、マジで……いえ、本当にすみませんでした」


要はご飯粒を集めて端っこに置くと、それは神妙に頭を下げて言った。


「へっ?」


それに呆気にとられたのは先生だ。

またまた要は予期しない反応をする。


「僕はに全く気がつかず、本当にすみません」


「あ……いや、要君。そんな君に僕は判然とだね……」


「いやぁ先生。本当なら僕が気がつく様な、そんな気の利いたヤツなら、先生や米子さん達に失礼をせずにすんだと思うんす」


「し、失礼?かい?」


「はい。先生達を自分と同じに見ちゃ、全くもって失礼極まりない事っす……はぁ……米子さんが遠回しに遠回しに、教えてくれてたのにも関わらず……マジで馬鹿っす……しかし先生、堤さんに判然と教えて頂きましたので、これからは気をつけてお仕えする所存っす……」


「か、要君?」


「いやぁ……先生達が〝霊さん〟だなんて、全く気がつかなかったす……だって先生は触れられるし足はあるし……それに粋で格好が良くて好男子だし……年の割に……お茶目だしちょっと可愛いし……僕の想像する〝幽霊〟とはかけ離れ過ぎっす……って言うか、マジでお会いした事ないから、解らなくて当然なんすけど……はっ?先生達と出会って幽霊さん達が解っても、結局のところ俺には区別がつかないって事?マジかぁ?どうすりゃいいんだ?全く先生のお役に立つ気がしない……」


要は自分の世界に入って、自問自答し始めてしまった。


「要君……ありがとう、ありがとうね……」


先生は優しいから、自問自答に苦しみ始めた要に、同情して言ってくれる。


「本当にありがとうね……」


先生は目を真っ赤にして、鼻をすする様にして笑って言った。


「せっかくの米子さんの料理だからね、美味しい内に頂こうね……」


「ああはい。炊き込みご飯のお代わりを頂きます」


要は卓上の端に置かれた、それは香りの良いさわらのおひつに入っている炊き込みご飯を、木しゃもじで掬って茶碗に入れた。

先生はちょっとボーとしていて、少ーし世間知らずで、とっても無知な要を微笑ましく見つめた。

誰もが恐れ忌み嫌う別世界の住人である我々を、要は全く気にしない。

自分の能力を認めたがらないから、〝そういうもの〟に対して、それは激しい拒否反応を見せるのかと思いきや、そういう様子も見せないからどうやら違うらしい……ただただ要の反応と感覚は、理解不能な所があるが、なんだかだから有り難く感じる。

要はただ普通に対応してくれる。

ただの人間の様に対応してくれる。

否、いつもと変わらずに、尊敬の念を失わずに持っていてくれる。

そして少しだけ、畏敬の念を抱いてくれる。

それは神に対する念に等しい、要なりの〝畏敬の念〟だ……。

要の先生達に対する態度は、全く変わらない。

堤さんに教えてもらったのに変わらない。

もしかしたら要は、違う人達に対する違う態度、とやらを知らないのかもしれない。


美味しい美味しいお昼を頂いて、食べ終わった物を台所に片付けに行く。

家でも同じ事をさせられているから、全然特別感無しに台所のテーブルの上に、盆に乗せた洗い物を置いた時、米子が台所に姿を現した。


「ご馳走さまでした。あれ?ご主人とお昼食べて来たんすか?」


「今日は主人は、野暮用で出かけておりますの」


「……って言うか、ご主人は何をされている方なんす?」


「……何を……と言われても……宅はかなり手広くいろいろと……ああ、一番は土地持ちでござんすから、マンションやらビルやら?」


「凄えお金持ちなんすね?」


「何を馬鹿な事を?あなただって、ご存知でございましょう?」


「はぁ?米子さん……そういうところ、もう少〜し詳しく優しく教えてくださいよぉ〜」


「全く……お解りになるまでの、課題でございますわよ」


「えっ?課題?宿題っすか?米子さーん、マジでマジで優しくしてください、頼んますぅ〜」

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