第7話
「君、本当に凄いね」
「はっ?どこがっす?先生の所に来るようになって、先生と羽鳥さんに言って貰う様になるまで、誰も褒めてくれた事ないっす。だけどここでは、物凄く物凄く言ってもらえて、そうやって言って頂くと、マジで幸せっす」
「彼等をきっと全く別に見ていないんだね?」
「別?誰を?何を?」
「……そうかぁ……僕は持って生まれた物を世間と違うと恐れ、そして先生と出会って今度は慢心してしまったんだね……人の持っていない能力に……」
「……そうなんすか?僕はそーゆーの持って無いんで……できれば、怖いものにはお会いしたく無いっすもんね……お持ちの方はお気の毒っす……」
堤は要の真顔を直視して、笑みを浮かべた。
「君って本当に面白いね……」
「あー、良い意味で言われる時には、そう言われます……」
要は力無く笑んで言った。
「……君と話してたら楽しくて、何時迄も居てしまう……さて……そろそろ僕は逝かないと……。最後まで気にかかっていた事がスッキリしたし、羽鳥君と米子さんは幸せそうだし、先生が君を得て……僕は安心して逝ける」
「なんか皆んなでお迎えに行くから、それは安らかに逝けるみたいっすよ」
「……そうなのかぁ?」
「……じゃあ、僕の時も安心すね」
要はそれは嬉しそうに笑った。
あまりに嬉しそうなので、思わず堤もつられて笑ってしまった。
それはそれは嬉しそうに……。
「堤さんはそれは穏やかに、良い笑顔で逝ったよ」
翌日羽鳥から、堤の最期を聞いて要は笑顔を作った。
「そうすか……で、皆んなでお迎えに行ったので、それは安らかに逝けたんすか?」
「ああ……閻魔様の所まで見送ったが、僕の事や米子さんの事や……昔の話しに楽しそうに逝った。そうそう……俵崎君の事はかなり褒めていたぞ」
「マジっすか?いやぁ〜褒めて頂いてばかりで、マジ恥ずいっす。何にもしてないのに……」
「君はさぁ……何にもしない訳じゃないんだなぁ……」
「えっ?そうすか?……って言って頂いても、してる覚えは無いんす……なんか申し訳無いっす、誉めて頂いて……」
「…………」
羽鳥は恐縮したりの要を見て、はにかむ様に笑った。
「先生、金木犀と銀木犀の香りは格別っすね。なんか混ざったら変になる事が多いけど、ここのは最高っす」
要は先生の次の作品のお手伝いと称して、体良く追い出されて米子の作ったお昼を頂きながら言った。
「……うん、ここの金木犀と銀木犀は凄いのだ」
「マジ凄いっす」
今日は森林で採れたきのこと、何とか……要は気にしないから記憶に残らない……何とか鳥の炊き込みご飯と、太刀魚のツミレのすまし汁と、ハモの湯引きと天ぷら、それと梅肉タレだ。
「ハモってうちで食えるんすね?マジ吃驚だわ……」
梅肉タレに付けて口に入れて、それは幸せな表情を浮かべて言った。
「ハモは調理にそれは手間取るのだが、米子さんのご主人が好物だからね……ついでに我々もご相伴にあずかれるのだ」
「えー?ご主人様さまっすね……ありがたやありがたや……」
さすがの要も、先生のお宅で〝ありがたや〟の気持ちを持てる様になってきた。
「……ところで要君……」
先生は要が来た時から、聞きたくて仕方なかった事を、思い切って聞く事にしたらしく言った。
「はい?」
炊き込みご飯を頬張って、先生を直視する。
「君は堤君から、僕達の事を聞いたんだろう?」
「…………」
「人間じゃないって……って言うか、普通持っている人間は、会った時に理解している様なんだが……」
「そうなんです先生」
要はちょっとご飯粒を飛ばして、先生に言った。
「なんか、そうらしいんす……って、堤さんの言い方だと……うん、そんな感じみたいっす」
慌ててご飯粒を拾う要の姿を、先生はちょっと辛そうに見つめた。
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