第6話

「……じゃあ、教えてあげるよ。貳瑰洞怪という作家はね、僕や君みたいに、特異体質の人間に助けて貰わないと、その才能溢れる作品を現世に出せないのさ。彼はとうの昔に死んでる身だからね。いつの時代に死んだのかは知らない……その惜しまれる才能の為に、彼が望んだのか神が欲したのか……彼は死んで尚も作品を生み出し続けている。それもこの世に何かしらの、悔いとか哀しみとか怨みとかを遺したもの達のそれが、裏の神に関係する物であって、神がお許しになられれば、彼が作品として現世に出せば、その作品の様にやり直せる……そんな特権を得て貳瑰洞怪はこの現代においても、大勢の人を魅了する物を書き続けているんだ」


堤は要を見て、薄っすらと笑みを浮かべた。


「マジ?マジっすか?」


さすがの要が、驚嘆の声を発したからだ。


「……そうかぁ……だから満月堂のお菓子を、米子さんが手に入れられるのかぁ?海鮮屋の海産物が食えるのか?光り輝く神様に会えちゃうのか?マジかぁ?」


要はちょっと、興奮状態となって堤を見た。

その要を見て、堤は変わらずの笑みを浮かべたまま


「まっ……驚くのは当然だが?貳瑰洞怪が人間じゃなく……」


「マジ先生凄いっす……」


「えっ?」


堤は要が興奮状態のまま差し出した親指を、目前に立てられて吃驚する。


「マジかぁ……満月堂と海鮮屋……これは超絶優れもんす。そうかぁ……先生だから手に入るのかぁ……凄え……ずっとずっと?マジ凄え、ずっとかぁ……」


「君……先生たちの事は、気にならないのかい?」


「気になる?ああ!すいません。先生はかなり偉大な小説家さんす。飛鳥なんか大大ファンだったけど、米子さんの作品を読んで大大大ファンになって……世の女性達も先生の作品の虜っす……うーん。あの凄さはから来てたのか……って事は、誰も真似できないって事かぁ……ガチかぁ……」


もはや要は自分の世界に入り込んで、先生の賛美しか頭にない様子だ。

堤は要の反応が、自分の意図したものと反していたので、ちょっと当てが外れた様子で、感覚が鈍いのか馬鹿なのか解らない要を見つめる。


「君は霊が平気なんだね?僕は先生に会うまでは、あまりいい事は無かったからね、この得異な体質を呪ったものだが……」


「いえ堤さん、俺霊苦手……って言うか、そーゆーの全く持って無いんすよぉ、だからまずは、今堤さんと話してる事自体吃驚っす。先生達から聞かされてなきゃ、腰抜かしてお漏らししてますよぉ〜」


至極真顔で言っているが、たぶん要は堤が生霊である事すら、解ろうとしないそれはそれは失礼なヤツだ。


「マジかぁ……先生〝霊〟なのか……」


真顔で考え込んでしまった。


「堤さん……で、一体何が変わるんすかね?」


暫く考えている様にから、要は真顔のままで堤に聞いた。


「先生は優しいしいつも俺を褒めてくれて、触れば普通に触れられるし、米子さんの美味しい料理を、それは美味そうに食うし、酒が好きで羽鳥さんとよく飲むし、なんか感覚似てるし……書くもの書くもの大ヒット作品の、それは凄い作家さんだし……堤さんは、を教えてくれて、それでどうしたかったんす?」


堤は意表を突いた、要の問いに表情を変えた。


「……そうだね……僕はどうしたかったんだろうか?……ただ、僕は知り合った時から先生は人間じゃなかったんだ。僕がいなかったら、作品は現世に出せなかったんだ……」


「……でも先生の作品すよね?天からそれは物凄く降りてきて、時間も我も忘れてひたすら書き続けて作り上げる、先生の傑作っすよね?俺は……俺はそれをただ先生に言われた通り書き直す……たったそれだけの仕事っす。だけど、あの不思議で耽美で艶かしい作品の、お手伝いができてマジで幸せっす。しっかり者で何一つ敵いっこない、姉の飛鳥が凄え大喜びで先生の作品読んで、陶酔するみたく熱く感想を言うその姿を見る度に、お手伝いできる自分が誇らしいっす。それが先生だから尚更だと思うんす」

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