第5話

「そうかぁ……米子さんも、貴彬様に思いが通じたかぁ……」


うぐいす豆の鹿の子を、手に取って堤は要を見た。


「先生の話しが掲載されている雑誌は、妻や子供がよく買って来てくれたからね、僕は君に会いたかったんだ」


「えっ?僕にっすか?」


茶を綴りながら要が吃驚する。


「うん……さっき会っただろう?そしたら、最後に話したくなったんだ……」


「…………」


「先生はいい助手がいないと、良い作品は現世に出せないからね」


「えっ?どうしてっすか?」


「どうして……って……」


堤は暫くただジッと要を見つめた。

ジッとジッと食い入る様に……。


「君さぁ……本当に解らないの?それともわざと?」


「…………」


「……そうかぁ……僕の足りないところは、そういうところだったのかぁ……」


「えっ?なんです?何が……です?」


要が身を乗り出して聞いた。それを真顔で堤は見つめている。


「……君さぁ……僕が幾つに見える?」


「そうなんす!ずっと考えてたんす。羽鳥さんから聞いた年齢には全く見えないって……と言っても、いくら若く見えるって言ったって可笑しい年っす……四十代ってところで……」


「ふーんそうなんだ?その頃は、先生のお手伝いに自信を持ち始め、妻との間に子供が二人いて一番幸せな時だったからさ……寝付く様になってから、ずっと夢の中ではこの年頃に居たんだ……」


「えっ?米子さんみたくっすか?」


「あー違う違う……あれとは全く違う世界だ、僕のは本当に夢の中だもの……」


堤は要を再び直視する。


「君……先生をどう見てるの?」


「先生っすか?」


「先生だけじゃない、米子さんや羽鳥君を?」


「先生は白髪で眼鏡の似合う、それは粋な紳士って感じっす……羽鳥さんは凄く軽い感じのイケメンで、米子さんはそれは美人で……」


「いや、見た目じゃなくて……」


「???見た目以外?先生はちょっとお茶目な不思議ちゃんで、羽鳥さんは軽いのに仕事ができて、米子さんは綺麗なのにちょっと意地悪で……それでいて凄い人脈を持つ凄い女性っす……絶対僕に敵う相手じゃありません……だから、ご主人は凄く尊敬できます。あの米子さんを受け入れられる、それはそれは凄い男性っす。お似合いっす」


要はいつもの癖っで、親指を立てて言った。

すると堤は、唖然とする様な表情を作って見せた。


「君って羽鳥君は別として……っと言っても訳ありだが、彼らが君と同じ様なじゃ無いの知ってるんだよね?」


「えっ?そうなんすか?」


「……先生がこの世の人では無いのは?」


「マジっすか?」


「まさか知らなかった……なんて言わないだろう?」


「いやぁ……知らなかったっす。えーマジっすか?」


要が真顔で言うから、堤の方が呆然とする。


「……って、君先生のお手伝いしてるんだろう?」


「……って言うか、先生の書いた原稿を、パソコンに打つだけっすけど……」


「はあ?君、先生の字が読めるのかい?僕ですらできなかったのに?……だから僕は、先生の言葉を原稿に書いていたんだ」


「……そうなんすか?確かに字が達筆?悪筆?先生に文章が降りて来た状態になると、一筆書きへと変化しますからね……読むのは大変っす」


要は大きく頷いて同調して見せる。


「……じゃ無い。僕には先生の字が読め無い……見る事ができなかったんだ」


「へっ?」


「……そうなのか……君って凄いんだねー。だからか……だから羽鳥君も米子さんも……」


堤は少し端正な顔を歪めて、要を見つめた。


「僕は先生にとって、唯一無二の人間だと思っていた……先生が現世で名を馳せるのは、全て僕の……僕の力だと思ってた……」

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