貳瑰洞怪先生のお気に入り達
第1話
「こんにちは」
背の高い男の人が要に声をかけた。
「あーこんにちは……」
先生のお宅の門を入った所で、要は初めて見る男性を見て、丁寧に頭を下げて挨拶をする。
先生のお宅で、人と遭遇したのは初めてだ……。
先生もお出掛けしたり、訪問を受けたりするのか……と、ちょっと……否否失礼な事を思う。
「君が新しい先生の?」
「あー……はい。新しい担当者です」
「うーん?君は本当にいいねぇ……僕の若い頃より全然いい。それにかなりお役立ちの様だ……」
「お役立ち?……いえ……全然役立たずです……恥ずかしいくらい……」
要は先生と親し気な男性に、ちょっと赤面して言った。
「いやいや……本当に良かった……これで安心してゆける……」
男性は温かい笑顔を残して、それは丁寧に会釈をして門を出て行った。
「……先生って、あんまり人付き合いしない系かと思ってた……」
ちょっと寂しい様な気もしながら、玄関を開けて中に入った。
「あら?いらっしゃい」
米子夫人が、それは目敏く玄関にやって来る。
「こ、こんにちは……」
……米子さんは凄えな……
とか、関心してしまう。
今日は何故か門にあるインターホンを押さずに、勝手に入って来たのに、この素早い対応は神がかりだ。
「今日はご用事は、ありませんでしたわね?」
「はあ……」
実は貳瑰洞先生の作品が想像以上に人気で、そしてこの間の〝
今日もいろいろとよくしてくれる河原先輩に、お手伝いはないか聞いたが
「俵崎は先生のお仕事で、忙しいんだから……」
とか、体良くほったらかされてしまった。
挙げ句の果てに、編集長の羽鳥に聞きにいくと
「……そうか、やる事ないのか?……だったら先生の所に行って来て」
とか、体良く追い出しを食らってしまった。
……と言われても、先生だってご用事が無い事くらい、要だって解って来ている。
なんと言っても、要は先生の一番の〝お気に入り〟なんだから……。
「またおやつに誘われまして?」
米子はカラリと、揶揄う様に言った。
……確かに、そんな気持ちが無いとは言い難いが……こんな状況に追い込んでいる〝原因〟が、呑気に人を揶揄う。
「丁度よござんしたわ。満月堂のおやつがございましてよ」
うー!この言い回し、家でも嫌という程飛鳥から聞かされている。
……が、ちょっと気にはかかるが、それより大事な事が目の前に
「えっ?マジっすか?」
パブロフの犬では無いが、飛び付いて喜ばんばかりだ。
「おや?要君」
先生は玄関で米子と立ち話しをしていた要を見ると、嬉しそうな顔を作って玄関迄やって来た。
「今日はどうしたんだい?」
「満月堂のおやつを食べに、お越しの様ですわよ」
「そう?満月堂のおやつを食べに来てくれたの?うーん?凄く凄く嬉しいよぉ〜」
先生は何時もに増して、歓迎感が半端ない。
「ささ……一緒に食べようよぉ〜」
玄関で立ち尽くしている要の手を取って、先生は要を物凄く促した。
「お、お邪魔します」
要はいつもの米子の意味ありげな表情に恐怖を覚えながら、慌てる様に靴を脱いで成されるままに先生に引っ張られて廊下を歩く。
先生はシャカシャカと足早に、要の手を取って歩いて行く。
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