第14話

「君それが秘密なのかい?」


「はい……友達いないのも……その辺に居る生き物が話し相手なのも……」


「友達じゃないのかい?」


「僕は友達だと思って友好を深めてるつもりっす……でもアイツらは、違うと思います」


「えーなんで?」


「なんか友好的じゃないんす。話しの途中で行かれちゃうんで……」


「はは……」


先生は笑うしかない様に笑った。


「だから、もしかしたら白い赤目の家守と、話したのかもしれないっす……そして気絶したんすね……」


要はため息を吐いて、先生を見て笑って


「よくある事なんで……」


「それでも体は気をつけないとね……そうか、もっと早くにか……」


先生はそう言うと笑顔を見せた。


「うーん。創作意欲がまたまた湧いてきちゃったよぉ〜。うんうん。要君の言う通りだねぇ、そうしよう……そうしよう……」


先生は文机に向かってペンを走らせ始めた。

こうなってからの先生は、よっぽど字が汚くない限り止める事はできない。



家守いえまもりの米子の恋の話しは、とても悲しくて怖くて切ないけど、それ以上にほのぼのとした可笑しさが漂う、先生にしてはちょっと風変わりな作品となって雑誌に載って、その今までとは違う意外性と、家守いえまもり米子のズバ抜けたキャラが、世の女性達にうけて、爆発的に人気を博した。


「この米子……最高でござんす」


「へっ?」


ご多分に洩れずハマりにハマりまくっている飛鳥が、リビングで要に言った。


「先生の作品は切なくて悲しいものが、ただ漂う様に流れていく事が多くて、特に女性たちが切なくてさぁ……我が身に置き換えて、のめり込んじゃう事が多いんだけどね、この米子は最高だわ……無敵でござんすわ」


もはや心酔している感まで、漂い始めている。


「……ま、まあ……モデルとなった女性ひと女性ひとだからね」


「えっ?に、モデルとなった女性がいるの?」


飛鳥は尊敬の眼差しを、向けて要に聞いた。


「うん。先生のお宅の全てを管理してる、女性なんだけどね……」


「えー凄い!憧れちゃうわあー」


飛鳥のこんな表情を見た事が無いので、要は恐れを覚えて見つめる。


「ねぇねぇ、その、結婚なさってるの?」


飛鳥の言葉遣いに違和感を覚えながら、迫り来る飛鳥の視線が怖い。


「あー、ちょっと言うのにややこしい最近に、所帯を持ったみたい」


「うー!その言い方最高ざんす」


飛鳥は意味不なガッツポーズを作って、要を見つめる。


「で?で?ご主人は?貴彬様みたいに素敵ななのかしら?」


「うーん?会った事ないからなぁ……ただ、お宅の洋館の二階の窓にいた姿を、見た事あるよ」


「ええ?洋館?マジでまま小説じゃん!うー萌える……」


飛鳥のはそれはそれは恐ろしいが、ここまで先生のお話しに入れ上げてくれるのは、担当者としては有り難い。


「凄く格好のいい男性ひとだったよ……ドラマの紳士そのままの……」


「クー、貴彬様だわ……貴彬様降臨」


飛鳥は天井を見上げる様に潤んだ瞳を向けて、脱力する様にソファーに腰を落とした。


「ス・テ・キ」


「……………」


飛鳥の萌え云々は全くと言っていい程理解不能だが、確かに要が知っている米子にはお似合いの紳士だ。

絶対米子が一目惚れして、あの物言わぬ圧力で搦め捕ったに違いないだろうが……。

それでも、なんだかいい様な気がする。

あの米子に搦め捕られたならば、きっとご主人も本望だろう。

だって料理はピカイチに上手いし、旬の物は知っているし、世の人が手に入れられない海産物や、満月堂のお菓子を手に入れられる、それは物凄いツテを持っている凄い女性だもの。

仮令神聖な白い赤目の家守りだとしても……。

貴彬様は物凄く幸せな男性に変わりはない。



《家守り米子の恋…終》

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