第7話
数日後柏木と豊子は、貴彬の洋館に招待を受けて出向いた。
初めて見る豊子の魂を虜にした。
大きなドアが開くと、代々仕えるという執事の爺が、深々と頭を垂れて出迎えた。
「柏木様お待ちしておりました」
爺に促される様に中に入ると、それは高い天井が広がっていた。
豊子は天を仰ぐ様に天井を仰ぎ見た。
「どうぞこちらに……」
爺は左手を差し出して、奥に見えるドアへ向けた。
「凄いだろう?」
柏木は、瞳を輝かせて圧倒される豊子に言った。
「爺、部屋はどの位あったっけ?」
まるで自分の召使いの様な言い方を、柏木はする。
「はて?今や使っていない部屋も有りますから……」
「爺が解らないくらい……って事か?」
「恐れ入ります」
奥の部屋のドアを開けると、それは見事な長いテーブルが置かれてあった。
「貴彬様、柏木様とそのご友人でございます」
爺は意味有りげに、豊子をチラ見して言った。
「ああ、ありがとう」
貴彬はにこやかに笑顔を向けて豊子を見たから、豊子は少し微笑んで頬を赤らめた。
「よく来てくれたね……女性の支度は時間がかかる……此処でちょっと軽く食事でもと思ってね」
「彼女は?食事はいいのかい?」
「君達に会うのに朝から大変な騒ぎだ。あれだこれだと……」
「彼女がかい?」
「いやぁ……全く気にしないタイプなのでね、女中達が大騒ぎさ。それは物凄い美女に僕を盗られてはと……朝からお支度に大忙しでね、さっきサンドウィッチを食べさせられて、着せ替え人形状態さ」
貴彬はそれは嬉しそうに、笑って言った。
そうこう話しをしているうちに、爺がスープを運んで来たので、長いテーブルの端に三人腰掛ける。
「あら?このスープ……」
豊子はスープを口に含んで飲むと、目を見開いて言った。
「私何処かで、頂いた事があるお味だわ」
「えっ?そんな事は無いと思うよ。このスープは、やはり代々仕えてくれる者が、ずっと護り続けて来た我が家の味なんだ」
貴彬は、屈託無く豊子を見つめて言った。
「いえ……私暫く頂いていた様に思うの……」
「はは……君はこんなスープを、暫く口にする様な暮らしはしていないだろう?」
「ええ、うちは母が作る、大して美味しくも無いお味噌汁が、せいぜいですわ」
豊子は赤面して答えた。
だが豊子には、爺が運んで来る食事が全て、かつて口にしたものに思えて首を傾げた。
「……しかし、君の家の食事はいつも美味いね。本当に羨ましいよ」
「僕には何も無いが、両親が心配したのか、代々仕えてくれている者達が、爺を筆頭に居るからね、有り難い事に不自由なく居られるのさ」
「全く君が羨ましいよ」
柏木は無愛想に、貴彬の顔を見る事なく言い捨てる様に言った。
爺がワインのお代わりを持って来たと同時に、それは目を見張る程の艶やかで美しい女性が、爺の後から部屋に入って来た。
「あら?はじめていらっしゃったのね?」
爺はその女性を見つめると
「その口の利き様はなんだい?」
と、ワインを注ぎ入れながら小言を言った。
「爺、彼女にそんな事を言うもんじゃない」
貴彬は見惚れる様に満面の笑みを浮かべて、女性を見て言った。
「申し訳ございません。私の弟の育て方が悪く……」
「何を……僕は米子さんの、こんなところも可愛いのだ。それをそんな真顔で否定されては……ね?」
貴彬はその場で立ち上がると、それは美しい米子を手招きした。
「柏木君、豊子さんこれが僕の思い人の米子さんだ」
「初めまして、米子でございます」
黒く艶やか黒髪を肩まで垂らし、白く透き通る白肌に柘榴の様に赤い唇は、化粧をしなくても良い程に美しい。
大きな瞳を縁取る睫毛は長く、筋の通った形の良い鼻が少し低めだが、他の顔のパーツがダントツな分愛嬌を与えて可憐な感じを与えた。
そしてその瞳は、大きく少し茶がかかっている。
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