第4話

「君は愛するって事を知ってる?僕はねぇ、豊子を愛してるんだ、仮令殺されても本望なくらい……」


「はっ?……それって、マジで愛するって事すか?そんだけ思ってくれるオタクとか、昔から住みついてる家守を焼き殺す様な……そんな残酷で残虐なとこ見ても、そんなの平気で言えるもんなんすか?」


要は貴彬に滔々と言った。

滔々の〝と〟の字すら解らない様な要が……否〝愛〟について語る事など皆無な要が、なんと滔々と語っている。


「愛するって……米子さんみたく、ずっと相手を思う事じゃないんすか?この家を思い当主を思い……〝愛〟の意味を勘違いして、死んでいったオタクを思い続けてずっとずっとこの世界を作り上げて、米子さんはオタクと生きてる……」


家守やもりの米子は要を見つめた。


「オタクはただの自己満足で死ぬんでしょうけど、あの女はこれに味をしめて、もっと金の有る相手?見つけちゃ結婚して、そして殺して行くんすよ……」


「馬鹿な……豊子はそんな女じゃない」


「……とか言わないと、今のオタクは惨めっすもんね……」


優しいだけが取り柄の要が、要ではない様に意地悪を言う。


「今だって、もう愛している訳が無い……ただ惨めに死にたく無いから言ってるんだ?そうっすよね……争う事ができないくらいに毒されてる……あのスープには毒が入ってて、ずっと食事に入れられてた……結婚した時から?そうすか?」


「……そうなのかい?米子……豊子はそんなに早くから?彼女には愛情が無かったのかい?」


貴彬は窪んだ目から涙を流した。

確かに夢中になったのは貴彬だ。

友人の紹介で知り合った豊子は、そんなに裕福な育ちでは無かったが、苦労していると言う割には純で清楚な感じだった。

だが言われてみれば、豊子はその友人にも〝そう〟だったのかもしれない。

しかし、彼には両親が健在で、特に母親は育ちが良くない豊子を、酷く嫌って見下して反対していた。

貴彬は遡れば華族の家系の家柄だが、両親が早くに死んでいて、そして身内も近くには居なかった。

親類が遠方に居るという事と、家柄が釣り合わないのを理由に、本当に近しい者達だけで式を挙げて済ませた。

そして結婚してそれ程経たぬうちに、豊子はその美貌に似合うかの如くに贅沢を覚えた。

愛に目が眩んでいた貴彬は、それは豊子の美貌を引き立てる為には不可欠な物と思い込み、全ては愛する夫の為にしている事だと思った。

ある日祖父の代から家に仕えた、家の管理を全て任せていた爺が死んだ。

結婚前から散々豊子について注意を受けていた爺の急死は、貴彬にある不安を与えたが、己の過ちを認めたくない貴彬は、どうしてもそれを認めたくはなかった。

爺が死んでからというもの、夜な夜な夢でうなされる様になった。

ある時は爺が豊子の事を心配して現れ、ある時は米子が現れた。

そして二人は口々に豊子が、貴彬を害すると言った。

それを夢の中でも貴彬は、二人を罵倒して豊子を庇った。

だが豊子が赤い目の、貴彬がこよなく可愛がる米子を嫌って、捕まえて殺そうとしている事に気がついた。

さすがの貴彬も、それは直接阻止したつもりだったが、豊子は米子の代わりに他の家守を捕まえては焼き殺した。

家守だけでは飽き足らずに、それに類した蜥蜴も捕まえては焼き殺した。

そしてその頃には、貴彬の体調が見るからに悪くなっていた。

古くからの主治医に見てもらっても、体調不良の原因が解らなかった。

主治医が心配して、大きな病院に入院する事を勧めたが、豊子はいろいろと理由を付けて貴彬を言い包め、大病院に行く事を拒ませた。

貴彬はどんどんと衰弱して、もはや豊子の言いなりになるしかなかった。

そしてここ数日起き上がる事もできなくなり、米子がずっと姿を見せていない事に気がついた。

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