第2話

「マジ?……まっ、先生のお宅だと、家を守ってる家守がいてもおかしくない気がするが……」


「私は此処の家守いえまもりではござんせん」


……うん?どっかで聞き慣れた言い方?……


とか、ちょっと引っかかる物の、そう深く気にしないから


「此処の家守じゃないなら、何処の家守なんだい?」


家守に向かって聞き返す。


「ちょっと先のお屋敷を、お守りしております」


家守は頭をずっともたげて、遠くを見て言った。


「へぇ?そこを守ってる家守が、どうして此処に居るんだい?」


「同胞が、彼処の悪魔に殺されるからです」


「悪魔?」


「我が家のご当主の奥様です」


「奥様が家守を殺してんの?」


「ええ、私をあそこに置いておきたくなくて、同胞を見せしめに焼き殺してますの」


「まじかー動物虐待も甚だしいな」


実は要はボーとしてるし、蜥蜴と家守の違いも解らない様な奴だが、生き物は大事にするタイプだ。

世の嫌われもののゴキブリですら殺す事はできない、それは優しいところがある。

……と言って、知らず知らずに踏んでたり殺してたり、してしまうのが要なのだが……。

基本動物愛護主義者ではある。


「それで同胞を連れて、この屋敷の奥に在る森林に逃したんです……ここは慈悲深き神様が、お座す森林ですから」


「さすが家守さん」


要は親指を、家守の前に立てて言った。


「……その為、我がご当主は悪魔の手にかかり、亡くなってしまいます」


赤い大きな目を要に向けて、家守は力無く言った。


「えっ?」


「当主は娶った豊子に、毒を盛られて亡くなるんです」


「えっ?奥さんに殺されちゃうんすか?なんで?」


「財産ですわ。豊子は純な振りをして、ご両親のいない当主に言いより、その財産を己の物にする為に、当主を殺すんです」


「うーん?金持ちあるある……ぽいな」


要がしたり顔を作って言った。


「私がいくらお伝えしても、聞いてくれません……」


家守はそれは悲しげな表情を向けて言う。


「……幾度この日を迎えたかしれません……」


「???ご当主って、何人も居るのかい?」


「あら?どうしてです?」


「幾度……って、何度も……って事でしょ?」


「まぁ?珍しい、お解りになるのね?」


家守は上から目線で要に感心してみせる。


「ご当主はあの方一人です。だってあの方が亡くなってしまったら、お家は成り立ちませんもの……」


「……で、どうしてもこの日を迎えるんす?」


珍しく要が的を得た事を質問する。今日の要はちょっと違う。

すると家守は、宝石の様に綺麗な瞳を要に向けた。


「……幾度と無く私が願うからです」


「何て?」


「あの方をお救いください……と……」


要は家守の赤い瞳を、食い入るように見つめた。


「米子さん、どうしてそんな事僕に願うんす?」


「あなたが救ってくれると思うから……」


赤い瞳はうるんで、キラキラと輝いて見えた。

とても綺麗で、そして切なくて……。


「………」


要は急に先生の裏庭を駆け出した。

そして門へ走って行く途中、反対側にある森林の入り口に目を向けた。

風が微かに頬を掠めて流れた。

ザワザワと木々が葉を揺らして、要に何かを語りかけた。

そんな事を気にする性質たちじゃないから、先生のお屋敷の様なお宅を背に、門を飛び出して走った。


「何処に行くんです?」


赤い目の家守が走る要に聞いた。

見るとそいつは、要と共に走っている。

要の顔の辺りで共に走っている……宙を走っている。


「米子さんのご当主の所に……」


「どうしてです?」


「どうしてって……」


要はその先を考える様にしながら走って、そしてかなり走った所に、先生のお宅よりもはるかに立派な洋館の屋敷を認めた。

息を切る要は、とても立派な門の前で洋館を見上げた。


「ご当主を救うんです」


要がそう言うと、要の目線の先で動きを止めた家守が直視した。

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