第12話
「うんうん。五人の曾孫に、自慢の領主となった孫娘婿と、それは心根の優しい孫娘に囲まれて、それは幸せな最後だったそうだよぉ〜。閻魔様もあれ程福々しい顔立ちの、亡者は初めてだと言われたそうだ……それにお家も血筋も残ったからさぁ、大往生さぁ……」
「それは何よりです。それに何よりなのは、主人が一番のお気に入りの白孤がお側に戻り、眷属神となった事でしょう?」
「うんうん……あちらはお気に入りは、それは大事にされるからねぇ」
「我々もそれにあやかっていますが……」
「羽鳥君、確かにそうだねぇ。君の顔を見ていると解るよぉ〜」
「えっ?そうですか?」
とか言ってデレデレにニヤけている。
「うん。だからさぁ、白孤の事も解る様な気がするよぉ〜。幸せだってさぁ」
「ああ……そうですね……本当にそうです……」
羽鳥は照れる様に、少しはにかんで言った。
「そうだよぉ〜。それが僕は本当に嬉しいんだよぉ〜」
先生はそう言うと、それは優しく笑った。
「今日のおやつは桃です」
「桃すか?」
先生の作業部屋で、新緑の香りと小川の涼しげなせせらぎと、小鳥の囀りをそら耳で聞きながら要は言った。
今日は特別ご用も無いのに、お邪魔をしている。
社会の荒波もへったくれも、あったもんじゃない。
「他にもいろいろと、果物が届きましてね」
「え?え?例えば?」
「例えば……そんな事はいいじゃありませんか?後のお楽しみで……」
さあどうぞ……みたいな顔を向ける。
……なので切ってある一欠片を、フォークでとって口に入れた。
「う、うま」
要が目を丸くして言った。
「マジマジ……こんな美味い桃は食べた事ありません」
立て続けに口に入れる。
「これは橘家からの贈り物かい?」
先生も一切れ取って聞いた。
「さようです。あちらは果物だけでなく、手広くいろいろとやられてますが、何といっても果物が美味しくできる所ですわ」
「うんうん……あそこは神山に続いているから、特に桃と梅が美味しくできるんだよぉ〜」
「先生、どうして神山という山は桃と梅が美味しくできるんすか?」
4個めを頬張りながら要が聞いた。
「神山には神泉という泉があってねぇ、そこには梅と桃と桜の木が一年の間に空くこと無く、どれかが咲いているんだよぉ〜。だから神泉のご加護を得て、梅と桃と桜が何処の地より上手に育ち、そして美味しい実をつけるのさぁ……」
「へぇ?凄いすね」
「そこの旧家の桃林が見事で……そこも失くならずにすんで、よかったですわね」
「桃林っすか?」
「それは一面の桃畑でねぇ……土地の人は桃林と呼んでいたのさぁ……」
「なんでも、お屋敷から地元の小学校に、橘家の土地だけで通えた程でしたとか?」
「そうだよぉ〜ご当主は眷属神の末裔だもの、それは栄えるさぁ」
「そうでしたわね。あそこは、今や眷属神の末裔でしたわ」
「眷属神って神様っすか?」
「まぁ……そうだねぇ……」
「ちょっと、貴方が思っておいでの、神様とは違いますけどね……」
「神様にもいろいろあるんすね?」
「日本の神様は、それは沢山の方々がおいでだよぉ〜」
「うーん」
要は眉間に皺を作って桃を見つめた。
「兎にも角にも要君のお陰だよぉ〜。その桃が絶品なのは、その桃林に続く神山に、眷属神様が愛する奥方様と共にお出でになられるからさぁ……とにかく、その土地を深く思っておいでの……ご加護に満ち満ちた桃だもの……」
「いやいや先生、何でも僕のお陰ではありませんが、こんな美味い桃を頂けるなら、幾らでもお役に立ちたいっす」
6個めを頬張って要は言った。
「これからもよろしくねー要君」
「あ……はい」
その意味の深さも考え様ともせずに、7個めにフォークを立てて要は言った。
《白と紅…終》
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