第6話
「……そう言えば、海鮮屋の
「うんうん。当主が能が無くてねぇ……奥方様が気苦労を散々されて、結局駄目だった……。ただ白との違いは、白が神使だという事だが……」
……白?どこかで聞いた名だな……
要は美味い海苔を、ご飯の上に乗せて聞き耳を立てる。
「それがあちらには、一番の問題でござましょ?」
「うんうん、そうなんだよぉ〜それが一番困りものなんだよぉ〜」
先生も美味い海苔を巻いて、ご飯を頬張って言った。
「この海苔も海鮮屋のかい?」
「さようで。こんな極上の海苔は、そうそう頂けませんわ。その海苔を……」
「海鮮屋の秘伝のタレ……だね?」
「そうですわ。こんな極上の物は、海鮮屋が倒産したままでしたら、二度と頂けませんでしたわ。あそこは綿津見様とのご縁がお有りですからね」
「うん、そうだね……。しかし、どんなにできの良い夫婦でも、必ずやできの良い子供が生まれるとは限らないのが、今生の醍醐味だね」
「先生、それは醍醐味とは申せませんわ。必ずや何代目かには途轍もなく出来損ないが、誕生する定めですからね」
「そうだね……海鮮屋は綿津見様との約束を違えて、失くなる処だったし……白は……」
先生はジッと白米を見つめた。
「白は主人がそれは小さい頃から、可愛がっておられた神使なのだ」
「子供の頃から、お目に留めて頂いていたんですか?」
「ああ、眷属神の中でも、それは由緒ある血統のものでね。抜きん出て才のある神使だったので、神々様の間ではそれは期待されていたんだ。ある日神山の一つに、ある大家の奥方様が参拝に参られて、途中で難儀をされた。それを目敏くお救いしたのが、まだ子供神使であった白孤でねー。当然の事ながら奥方様は、いたく白孤をお気に召されたが、神の遣わしめでは、高々の人間ではどうする事もできないからねぇ……で、奥方様が如何して参拝したかと言うと、当主……つまり奥方様のご主人が稀に見る愚か者で、奥方様は先代当主に利発さを請われて、それは莫大な結納金で嫁入りしたのだが、如何に賢い奥方様にも手に余る程の愚鈍だったそうだが、先代見込みの奥方様が添うたお陰で、如何にかその代は持ち堪えたのだが、その次の当主つまり奥方様の息子三人が全て愚か者であったが為、奥方様はお家が気がかりで死んでも死にきれぬと、我が主人に参拝して家名の安泰を懇願した。すると主人は奥方様のその強い思いに感銘を受けられ願いを叶えてやりたいが、如何したら良いか?
と問われた。それは奥方様をお試しになられたのだが、其処は賢い奥方様の事だから
当主である愚息の所に実に美しい娘が誕生致しました。その孫娘を今し方認めてとても気に入った白孤の嫁にし、白孤を人間の領主として恥じぬ様に育てあげ、跡を継がせたいと思いますが、お聞き入れ頂けましょうか?
と懇願した。すると主人は
白孤は神が遣う神使である。神使を一生涯其方に授ける訳には参らぬ。第一神使の生涯は人間よりも遥かに長いのだ
と返された。
ならば孫娘の生涯の間だけお貸しくださいまし、その神使の子供であるならば、さぞや利発な者でございましょう……孫娘が生を終える時に、神使をお返しいたします
と再び懇願した。
神様はそれはお気に入りの白孤に、それ程までに言う美女を娶らせておやりになろうと思しめされて、白孤を奥方様に貸し出したのだ」
「それで?孫娘は超絶美女だったんすか?」
「そうだろうねぇ〜超絶美女だったんだろうねぇ〜。腹を切る程に愛したのだから……」
先生はしみじみと言った。
「腹を切る程に?……それって白さんですか?」
要が言うと先生は大きく頷いた。
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