第8話

「それじゃ先生、車で送りましょう……」


羽鳥が二人を見て言った。


「大丈夫だよぉ〜。要君とブラブラ歩いて、タクシー乗れる所まで歩いて行くよぉ」


「しかし遅いですし……」


「大丈夫だよぉ〜。今夜は恩恵に授かっているからさぁ……歩いて帰る方がいい事あるよぉ〜」


先生はそう言うと、要が大丈夫だと見て立ち上がった。


「先生。本当にありがとうございました」


玄関に行く途中で、それは美しい女将さんが、先生と要に包みを手渡して言った。


「今夜のお料理の残りですが……」


「それは縁起がいい……」


先生はニコニコして、受け取って言った。


「えっ?マジっすか?」


要は途中で寝てしまったから、テイクアウトしてもらえてホクホクだ。


「じゃあね……」


そんな要を見て先生が微笑んで、女将さんに言った。


「俵崎、月曜日にな……」


羽鳥と女将さんは、玄関まで見送ってくれて、それは仲良く手を振ってくれた。


「羽鳥さんは帰らないんすか?」


要は愚問を投げかけて、さすがの先生にちょっと失笑された。


「要君。羽鳥君はあそこに入り婿したのだ」


「入り婿……ですか?」


「うん……。まぁ、以前からあそこに、住んでいる様なものだったがね……」


「ああ。同棲ってヤツっすか?まぁ、結婚が決まってるから、関係ないのか……?」


「二人は正真正銘の、夫婦になったのだよ」


「えっ?もう入籍しちゃってるんすか?」


「ああ……入籍もそうだが……」


「まっ、凄くお偉い方々から、お祝いされたんだから……って事すね?」


「おお、要君。さすが君は解ってるねぇ」


先生はそれは嬉しそうに言った。


「僕の夢の中ではそういう事で……。なんか、見た事もない程のまん満月見たら、そんな気持ちになりました」


天満月あまみつつきだねぇ……」


「天満月?……なんか聞いた事ある様な?」


「満天の星空をお祝いにね……」


「おお!先生。それ僕の夢の中で……???なんとか様がお祝いに……って……」


「月夜見様だろ?」


「あー?そうかもしれません……」


「月夜見様は、月の神様だからねぇ……夜をべる神だからねぇ」


「それにしても綺麗な天……天……」


「天満月だよぉ〜」


「ああ……天満月ですねー。凄えデカクて明るいっす……こんな月見た事無い……」


要が天を仰いで見惚れる様に言った。


「そうだろう?お祝いだからねぇ……それにほら、満天の星空だろぉ?」


「はい。こんな夜空見た事無いっす。星が何時もの二倍?いや三倍はありますよ」


先生も要と一緒に天を仰いで見つめる。


いつもより夜空は暗く、そして数多あまたの星は煌めいて、そして白い大きな月が煌々と輝いている。


……綺麗だ……


要はまるで天に吸い込まれる?吸い上げられる?様な錯覚を覚えて見入った。

すると隣で先生が、同じ様に天を仰いで見入っている。

黒の紋付き袴で……???……そういえば、夢の中の先生も紋付き袴だった……。

羽鳥も紋付き袴で似合っていた。

何よりも女将さんの花嫁姿は美しくて、今夜の満天の星空の様だった。

来客達が皆んな嬉しそうにしていて、なんだか幸せな気分になった。

そして極ウマの料理……。

何処までが夢で、何処までが現実だったのだろう……?

きっと料理は本物だ。舌鼓して食って酒を飲んで酔っ払った……。

あの酒も本当に美味かった。

だからそんなに強く無いのに駆け付け三杯……じゃないが、調子こいて飲んで酔っ払った。

その後は、それは楽しい夢を見た。

異様なもの達ばかりだったけど、狸も狐も飲んで踊って歌って……マジで楽しかった。

喰われるのは厭だが、また会ってみたい。

夢の中でもいいから……。

麒麟に龍に鳳凰に亀に……狐や狸や狢……。

そして顔が輝いていて判然と見えない、神々様……。



《不思議な祝賀会…終》

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