第7話
要は見た事も無い天井を、目を覚まして見入った。
「あれ?宴会は?」
薄暗い部屋に布団を敷いて、寝ている身を起こして周りを見回した。
襖の向こうから話し声が聞こえるので、宴会は続いていると思って襖を開けた。
「おっ!要君目が覚めたかい?」
「宴会は済んだんですか?」
「宴会?」
「あーと、羽鳥さんと女将さんの祝言です」
「…………」
先生はジッと要を見つめたが
「実は要君……」
「あーいえ。僕、酔って寝ちゃいましたか?」
「ああ……うん。君羽鳥君から酒を勧められて飲んで、アッと言う間に……」
「やー。参ったなぁ……お酒はそんなに強くないんです……すみません」
「いやいや」
「いやー。実に不思議な夢を見ました……女将さんのご一統様と、そのお祝いに来られた、決してお目におかかる事のできない方達の……」
要は先生だけしか居ない部屋を眺めた。
話し声がすると思ったのは、疲れからくる空耳っぽい。
「米子さんも今日はそれはおめかしをして、それは綺麗でした」
要はにこやかに笑って言った。
「???要君、それは夢なのかい?」
「はい。だけど凄く楽しい夢でした。先生や米子さんや羽鳥さんは、神様にお仕えしているんです。だから僕も間接的にお仕えしてるんです……で、その神様に都合の悪い事を、先生が執筆する事で正していく……らしいんす」
「それが楽しい夢なのかい?」
「はい。マジで決してお目にかかる事のない、神様……顔は神々し過ぎて解らないんすけど……とか、瑞獣の長おさっぽいのとか、狐や狸や狢とか動物や爬虫類が、羽鳥さんと女将さんの祝言に来ていて、そりゃ賑やかで楽しかったっす……僕、麒麟と目が合っちゃって、祝いの席じゃなかったら食われる所でした」
「へぇ、そんなに楽しい祝言だったのかい?」
「先生の書かれた作品が、まま羽鳥さんと女将さんだったんで、瑞獣の九尾の狐が哀れで仕方なかったから、招待された凄い〝もの達〟は、それは喜んでくれてて、あんな結婚式だったら……そりゃ幸せになるなーって……」
「そうかぁ……羽鳥君達は幸せになるねぇ」
「どうしてですか?先生?」
「君がいい夢を見てあげたからさぁ……きっと、それは神様からのお告げだよぉ〜」
「またまた先生。僕はそういうの持ってませんって……だけど、持ってなくてもそうだといいなぁ……」
要は笑顔を向けて言った。
「羽鳥さんはいい人だから、幸せになって欲しいっす」
「うん。彼は本当にいい青年だ」
「青年……すか?」
「うんうん……」
先生は顔をくしゃくしゃにして頷いた。
すると羽鳥が、部屋を覗きにやって来た。
「おっ!目が覚めたか?」
「あーはい。すみませんでした」
「いやいいよ。驚く程だらし無い顔して寝てたぞー」
羽鳥が笑いながら言った。
「いやぁ、凄く楽しい夢を見てたので……」
「夢?」
「君と藻さんの祝言の……祝言の夢だそうだ」
「祝言……?」
「はあ、すみません……酔って余計な夢を見て……」
さすがの要もしおらしく頭を下げた。
「いや……そんなに楽しい夢だったのかい?」
「そりゃ……」
要は嬉しそうに言いかけて
「……夢なので……」
「えー気になるなぁ」
「マジっすか?」
「うんうん……」
先生と羽鳥が頷く。
「神々様や瑞獣さん達がお祝いに来てましてね。飲めや歌えや踊れや……で、それは賑やかでした……妖狐ご一統様とか、妖狸ご一統様とか……米子さんに教えてもらったんですが、あれは何だったのかなぁ?」
「それはたぶん神使達だろうねー」
先生がすかさず言った。
「神使?」
「神の遣わしめだよぉ〜。神々様は所縁のある動物を、遣わしめにされる事があるからねぇ……さすが要君だねぇ……」
「へぇ?そんなもの達がいるんだ?瑞獣だけでなく?」
「うーん?瑞獣はまた別物だよぉ〜、神のお遣いは瑞獣じゃないよぉ〜」
「……???」
「藻さんは瑞獣だったが、偶々神様に遣わされただけで……」
「……???」
先生は要の表情を見て、その先を言うのを止めた。
「楽しい夢の後だもんねー、小難しい話しは止めにしようねぇ」
先生は要の肩をポンポンと叩いて言った。
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