第6話

「米子さん酷い……」


「全く。狐や狸や狢や……なんて当然ですわ。だって妖狐ご一統様ですもの」


米子はケラケラと笑って、横倒れしている要を見下している。


「米子さん、僕はその妖狐ご一統様の意味が解りません」


「全く……そのままの意味ですわ。ケラケラケラ……」


要はそれは立派な黒檀だか白檀だか……漆黒だか漆だか……。そんな卓の隙間から、祝い客の姿を見つめた。


……鳳凰に龍に、途轍もなくデカイ亀に羊ぽいのに鳥?鳥?そしてあれは……


「麒麟である」


目が合うとニヤッと笑んで言った。


「キリン……?ああ……飲み物の……」


要がつぶらな瞳を向けて呟くと、ご当人はそれはムッと不機嫌になって目を赤くした。


「祝いの席でなくば、其方を食っておるぞ」


それは恐ろしい形相で睨め付けて言ったので、要は慌てて目を閉じて寝たふりをする。


「馬鹿め……」


麒麟は捨て台詞を放って隣の狸と談笑しながら、盛り上がりに盛り上がっている、お狸様ご一統の余興に笑っている。


狸に鼬に……ありとあらゆる動物、爬虫類が人間ぽい格好をして、それは豪勢な身形を整えて食事をして酒を飲み、そして手を叩いて笑っている。


そして新郎新婦に近くなればなるほど、煌々と輝いていて顔が解らない。


「神様凄え……」


そう言いながら目が閉ざされていく……。


「なんと、あれが……神のお気に入りのお気に入りであるか?」


……神?……が聞こえない。空耳だから仕方ないのか?……


「さよう。今回の功労者であるゆえ……神は、それはご満悦のご様子」


……だけど気になる……何神なのだろう?……


「なる程……神は、ずっと差し向けた瑞獣があの様にされ、いたく面目を潰されておられた……」


……だめだ。いくら集中しても聞き取れない。他の言葉は判然過ぎる程に聞こえるのに……


「実に痛々しい限りであった……」


「ゆえに我々も、瑞獣を遣わすは控えておる……」


「おうよ。如何に良き事と思うて遣わしても、傷付けられ閉じ込められては、我らの面目が立たん……」


「全くである……」


「如何に関わりを持った者を罰したところで、これ程長きに渡り手を焼かされては……もはや、奴らには吉兆などあり得ぬわ……」


空耳が……空耳が煩い。

そんなに疲れているとは思えないのだが……。

聴こえているという事は、疲れている。

疲れているから、大事なところが聞こえない……。


「しかしあの者は、然程に凄い者とは思えぬが?」


「いやいや……どう見ても感じても、全くの能無しだが……」


「実に変わりものの……神らしい、あの様な者をお気に召すとは……」


「しかし、お気に入りはさすがであるな」


「おお、あの者は長きに渡り功を成しておる」


は役に立つ……実に役に立つ……」


……誰?誰の事だ?……


要は煩い空耳をバックミュージックに、ゆっくりゆっくりと眠りについて行った。

夢の中でも楽しい餘興は続いている。


「あら?あなた?俵崎さん?」


米子の声が遠くに聞こえる。


「ややや?要君要君……しっかりしっかり……」


先生が途方も無い馬鹿力で揺さぶっている。


……先生、今俺は寝てるんで……


揺さぶられながら、要は途轍もなくだからしのない顔を、ニヤケさせながら眠っている。


……楽しい……こんなに楽しいパーティーは初めてだ……


「おい俵崎!大丈夫か?」


めちゃカッコいい羽鳥さんが、黒の紋付き袴で要を覗き込んで言った。


「大丈夫大丈夫……」


「ほほほ……よきかなよきかな……」


まばゆい光を放つ方々が、点でに笑いながら言っている。


「よきかなよきかな……真によきかな……」


超絶楽しい宴は、まだまだ続いている……。


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