第5話
「そんな事はないよぉ〜。君の一途さが幸せを招いたのだ」
「幾度も幾度も、挫折しそうになりました……その気持ちを抑えられたのは、先生の励ましのお陰です。本当にありがとうございました」
羽鳥は深々と頭を下げて言った。
「うんうん……良かったよぉ〜。それに今迄の君の辛抱を、あちらは好ましくお思いだろう?君の寿命はかなり長くなりそうだねぇ?」
「はあ……今迄意外と短命でしたからね。その分も長生きさせて頂けそうです……それと……」
羽鳥は先生の耳元に、顔を近づけて小声で囁いた。
「生涯を終えたら、藻と共に〝あちら〟に行く事をお許し頂きました」
「ええ?それじゃ……」
「藻の生涯が尽きるまで……ですが……」
「それはまたと無いご配慮だ……藻さんと君の一途さが、あちらのお気に召したんだねぇ……」
「先生のお陰です。僕も藻も幾度となく、挫けそうになりましたから……それを先生はずっと励ましてくださり、精一杯書き続けてくださいました」
「それしか僕に、できる事はなかったからねぇ……」
「僕らのこれからが在るのは、先生と俵崎君のお陰です」
要は羽鳥から名を出されて、料理を取る手を休めて羽鳥を見た。
「編集長……僕は何も……」
「まあ、そう言わずに……」
羽鳥は要の杯に、酒を注ぎ込んで言った。
「本当にありがとう」
「いえ……幾度も言って頂き……」
返す言葉が解らずに、そんな事を言いながら杯を空けた。
「うま……」
「美味いだろう?これは神に捧げる為に拵える、特別な物なんだ」
要は余りの美味さに、杯を羽鳥の前に差し出した。
「……もう一杯頂いてもいいっすか?」
「要君、これは意外と強い酒なんだよー」
先生は大慌てで言ったが、要は二度と頂く事がない様に思えてオネダリポーズ。
羽鳥は苦笑いをして注ぎ入れてくれた。
余りの美味さに、駆け付け三杯じゃないが、グイグイと続け様に三杯飲み干した。
「要君、そんなにグイグイと飲んだら……」
酒好きの先生がオロオロしながら言ったが、そんなの後の祭りだ。
「あらら……」
米子が隣で頓狂な声を上げる。
先生が心配した通り、徐々に要の様子がおかしくなっていく。
まるで赤鬼の様に真っ赤になって、目が座っている目が……。
「先生!この酒は逸品物ですな」
「へ?」
「料理は美味いし酒も美味い!マジで今日は最高の日和です!」
何故か人差し指を立てて、先生の目の前に立てる。
「羽鳥さん!おめでとう!ございます!あんなあんな超絶美人女将さんと、ご結婚最高っす」
羽鳥の目の前に親指を立て言った。
「しかし先生、今日の参加者さんは、何故狐や狸や狢とかなのでしょうか?尾っぽが揺らめいているのでしょうか?」
要は満面の笑みを浮かべて、宴会の中央を見た。
青龍と黒龍が、宙を泳ぐ様に踊っている。
先程まで顔が眩いばかりの、二人が祝いの舞を披露していたが、それが白熱してくると龍となって、部屋狭しと宙を舞いまくってそれは荘厳だ。
その前は綺麗な狐が何匹も、祝いの舞を披露しているのだが、体は人間のものもいれば、そうでないものもいる。ただ何本もある尻尾が綺麗で、そして凄く艶かしく動いて目をひいた。
「先生……かのかのあちらの人達は、眩しい程に光輝いていて顔が解りません。神々しくて後光が差してる様で、顔が解りません」
それは美しい新婦に近い方達を、指差して言った。
「先生の主人さん……」
そう言って要は、テンションを上げて中央を見やって腹を叩く。
餘興の様に狸ご一統様が、縁起のいい腹鼓を鳴らして踊りまくっている。
やっぱりこれが一番場を盛り上げているのは、言うまでもない。
「ポンポンポン……狸の腹鼓だぁ〜」
要はそう言うと、米子にもたれかかる様にした。
すると米子はサッと身を避けて、要はそのまま横に倒れてしまった。
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