不思議な祝賀会

第1話

羽鳥が結婚するという事は、かなりの速さで広まった。

羽鳥は仕事はできるし格好も良いし、少し塩顔男子だがイケメンだし、かなりの社内の女子が陰で泣いたという事も広まった。

長い長〜い交際を経て、やっと結婚する事ができるという、社会の荒波に必要不可欠な噂話迄くっ付いて、驚くほどの速さで広まった。

式は来年の春……という、情報迄広まっている。


「俵崎……君が拡散した訳じゃないよなぁ?」


「お……ありません。拡散する程友達いないし……」


「くっ、俵崎……淋しい事言うなよぉ〜」


とか何とか言っちゃって、凄く凄く嬉しそうだ。

長い長〜い交際を経て……であれば、それは嬉しいだろう。

きっと、超絶美人の女将さんの両親に反対されていたんだな……。と要は思っている。

羽鳥さんは良い男性ひとなのだが、ちょっと軽く見えるというか、調子が良すぎるというか……。とにかくそんなだから、超絶美人女将のお父さんから見たら、ちょっと安心して預けられない節はある様に思うのは、余りに超絶美人女将だから、要は羽鳥が羨ましいのかもしれない。


「ところで俵崎君、今週の金曜の夜空いてる?」


「あー……先生にお呼びがかからなければ、いつでも空いてます」


「そ?……なら良かった、先生も一緒だからさ……君には是非来て欲しいからさ……」


「えっ?何処っすか?」


「いや……みくずの料亭」


「ああ……はい」


要は嬉しそうな表情を作った。

超絶美人の女将さんに会えるし、何といっても料理が美味い。

あそこの板さんは天下一品だ。

彼処の料亭と米子の料理を食べれるのだから、本当にこの出版社……いやいや、貳瑰洞先生の担当になれて幸せだ。

今まで要の人生の中で不動の一位の〝おふくろの味〟が、なんと三位という位置付けとなってしまった。

当然ながら一位は、超絶美人女将の料亭の〝板さん〟だ。


……って待てよ、今あっさりと聞き流してしまったが、超絶美人女将を呼び捨てにしていなかったか?……さすが調子良い羽鳥編集長だ……


ちょっとやっかみを持って思ったりする。


今回の作品は、前の評判がダントツだった作品より、更に評判を上げたから、ちょっとのんびりしている先生が、米子のお昼に誘ってくれた。

今日のお昼は冷麺と、裏の森林で採れたタラの芽やキノコの天ぷらだ。

米子の天ぷらは格別に美味しい。

彼処の超絶美人女将の料亭の、一流〝板さん〟に負けていない。

……一流〝板さん〟は勝手に要が思っているだけだが……。


「要君も金曜日呼ばれたのかい?」


「あ、はい……」


またまた羽鳥の奢りで、極ウマ和食にありつける……。


「それは当然だ……君のお陰だからね」


「はあ……羽鳥さんにも女将さんにも、もう何回もそう言って頂いてますが、その意味が解りません」


「君は本当に解らないのかい?」


「先生……」


要が悲愴感を漂わせて先生を見たので、先生は困惑の色を表した。


「……解らないと、金曜日行っちゃいけないっすかね?」


「えっ?」


「奢って貰う理由も解らなくて、行くのは失礼っすか?」


「あー要君。そんな事はない……そんな事はないから、安心して行きたまえ。それは……羽鳥君の気持ちだし、お祝い事だからね、全然気にしなくていいんだよ」


「そうっすか?よかった……彼処の料理は極ウマなので、凄く楽しみにしてて……僕の知りうる限りでは、その次に美味いのは米子さんの料理っす」


「おお!要君。僕もそうなんだ。一番は彼処で次が米子さんだ……僕たちはやっぱり気が合うねぇー」


先生が大喜びしているが、そこのところはちょっと引っかかる要だが、事実としてそうだから仕方ない。


「今日の冷麺も極ウマっす……」


「米子さんは、麺を打つのが上手いのだ」


「えっ?米子さんは自分で麺を作るんですか?」


「そうだよぉ。だから美味いんじゃないか?」


「米子さん凄え……」


「そうなのだ。米子さんは凄えのだ……」


先生はそう言いながら、それは美味しそうに冷麺を啜った。

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