第9話
「……でだね要君。僕はもう一度あの作品を書こうと思うんだ」
「えっ?九尾の狐のその後の話しですか?」
「そうそう……瑞獣九尾の狐の話しだよ」
「瑞獣九尾の狐……。瑞獣とは瑞兆として姿を現わすと、されるものですよね?」
「おっ、要君お勉強をしたね?」
「はい……先生のお書きになっていた作品の中の九尾の狐は、瑞獣とされていたので気になって調べました。先生、九尾の狐を瑞獣として作品が出た場合も、僕は要注意と思っています」
「…………」
要の気持ちはそれは有り難いが、ちょっと違うと思う先生だ。
「瑞獣には九尾の狐の他にもいろいろ有ります、九尾の狐の吉兆を現わす瑞獣としても、その現れる意味合いが違う様な気はしたんですが?」
「例えば?」
「鳳凰は徳の高い王者による、平安な治世に現れるとか……」
「ああ……あれは中国伝来だし、古の人々によって言い伝えられたか、はたまた政治的な意味合いもあるからね……一概に正しいとは言えないんだよ。第一九尾の狐は神によって吉兆を伝えに遣わされた瑞獣だからね、君が調べたものに当てはまらないんだ。だが、神はかなりお嘆きになられた。後に乱世となったのは、神の逆鱗に触れたからだ」
「えっ?そうなんすか?」
「それは当然な事で、神のものをあの様にしては……」
先生は悲愴な表情を作って軽く首を振った。
「まあ、神様でも怒りますよね?……という事は、今の時代ちょっと有名人な陰陽師が、できの悪い人だったのでしょうか?」
「いや要君。彼はかなり実力者だったと思うよ」
「だって瑞獣を妖狐と見誤ったヤツですよ?」
「瑞獣というのは、良き時代や王族を
「僕も先生があの作品を、とにかく早く世に出してくださったら、凄く凄く安心できます」
それは嬉しそうに言った。
「そこで要君」
先生は大真面目に要を見つめた。
「はい」
「君はあの作品を読んで、どう思ったかなぁ?」
「あ……」
感想……というヤツか……。
「作品はまだ読んでいなかったんです。ほら、書き写す作業がありますからね……その時でいいかと……」
とか言いながら、何時も先生の文体と字体に苦戦して、結局雑誌に載ってからじっくり読むというのが、正直なところなのだが……。
とにかく、打ち込みながら概要だけは何となくだが理解していくから、そういう事にしておく。そこはちょっと調子良くなった要だ。
「あーでも、今回のあれは、何となく切なくて悲しくて……。不思議と読んではいないんですが、お手伝いをしただけで……」
「……しただけで?」
「あの二人の幸せを切に願いました。最後は呪縛が解けて、二人は幸せになれたじゃないですか?よかったなーって……」
「そうか!君はあの二人の幸せを切に願ってくれたんだね?ありがとうありがとうねー」
先生は感極まった様子で、要の手を取って言った。
先生は作品の事となると、現実との区別がつかなくなってしまう。
そんな先生の事を少しずつ解り始めた要は、礼を言われながら苦笑する。
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