第2話
「おお!要君……」
先生は要の顔を見るなりそう言った。
「先生……本当に申し訳ございません」
深々と頭を下げて詫びた。
「いや〜やっぱり君でも駄目だったかぁ……悪い事をしたねぇ……」
先生はそう言うなり
「はい」
と原稿の入った封筒をくれた。
「………」
「稀にある事だからね。簡単に解決できるヤツを、すこーし書いてあるんだ」
語尾を少し上げてお茶目に言う。
「簡単に解決……すか?」
「うん。まぁ……悩まずに書けるっていうか……」
「ああ……降りてくるってヤツっすか?」
「降りてくる?……違うと思うが、スラスラと簡単に書けるヤツだねーうんうん」
「はあ……と言っても、先生の力作が……」
「ああ。僕はいいと思うんだが、こうなる物ってね、認めて貰えない物なのさ。君が責任を感じる物じゃないからね……言っておけばよかったね。だけど、君に言ったら効き目なくなっちゃうと思ってさぁ……」
「……効き目っすか?」
要はかなり意気消沈なものだから、物凄く元気がなく言った。
「とにかく、紛失した物については、君の責任じゃないからね……気にしないでいいからね」
「あ、ありがとうございます」
と言われても、気にしない訳にはいかない。
それはそれは有り難く頂いて、帰る途中何度もカバンの中を確認しながら帰る。
「俵崎、ご苦労さん」
羽鳥は要を見るなり出迎える様に言った。
「本当に申し訳ございません」
深々と頭を下げて詫びた。
「君だけは仕方ないから……」
「???」
「先生の場合稀にある事なんだ……」
羽鳥は優しく言ってくれるが、少し元気がない。
やっぱり上の人にお叱りを受けたのだろうと、要も項垂れて自分の机に向かって、何時もの様にパソコンを開いた。
「はぁ……」
大きくため息を吐いていると
「どうした俵崎?大作家先生のお気に入りが?」
二個上の先輩河原さんが聞いてくれた。
「いや……編集長、上司にかなり叱られたんでしょうね……」
「なんで?……って言うか、ここのところ雑誌の売れ行きが良いから、褒められる事はあっても、叱られる事は無いと思うぞ」
「……じゃ、これからっすか……」
要の意気消沈は本格的に……。
先生からの原稿は何時も早めに頂くから、パソコン入力は慌てないで済む。
先生の悪筆には苦戦するし、文体も要の能力じゃ難しすぎる。使用漢字も見た事のない物があるから、毎回悪戦苦闘して入力を済ませて編集長に手渡しする。
無論有り難い原稿もだ。
「今回は本当にすみませんでした」
「いや、大丈夫だから……それより、その原稿って見たの?」
「ああはい……手渡しされましたから……」
「……じゃなくて、内容。話しの中身」
「ああ、先生のお手伝いしてますからね、少し……っすけど……」
「ちょっと教えてもらえるかな?」
「ああ……そうっすよね?盗作されたらマジヤバだもんなぁ……」
要は作家=盗作くらいしか、考えが及ばないくらいの無知だ。
「あの作品は、妖狐の話しでしたよ」
「妖狐?」
「そうそう……」
「ふーん?それで?」
「そのお話しは瑞獣として遣わされた妖狐がですね、上皇を病気にしちゃって、そいつを陰陽師が退治するんすけど、瑞獣の九尾の狐が上皇に仇する訳無いってお話しで……時を経て人間の男性と愛し合うんですが、何故か二人は触れ合えないんです。その二人のもどかしい愛情が、切々と書かれた切ないお話しです」
「それで最後はどうなるんだ?」
「最後はハッピーエンドです。……九尾の狐にかけられた何かが解けると、二人は触れ合える様になるんですよ……なんだったかなぁ?第一瑞獣ですからね?神様からはお許しを頂いているんです。何時も思いますが、先生の書く神様はかなりの太っ腹っすよね?大概の物はお許しになる……それが解けなくても人間と結婚してもいいんですけど、なんせ触れ合えないので……切なくてもどかしいお話しっす」
「そうか……ありがとう」
羽鳥は力なく笑んで何故か礼を言った。
その理由を気にかける要ではない。
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