第13話

「そうなの?じゃないわよ。こんな話しごまんとあるからね……もう!要ちゃん知ってたんじゃないの?結局あの人は私を愛してたのね……なんて、どっちかが死ぬ時に悔恨の涙を流すのよ……」


「ゲゲ……飛鳥凄いよ!」


「何が凄いよ……よ。こんな話しあり過ぎて、何時も思うわけよ。何で男はお前を愛しているんだ……と言わないのか?女は私の他に女作ったら、私死んじゃうわよーとか、あんたを殺すわよ……とか言わないのか?」


「それは飛鳥。その時代の男は、そういうものなんだよ」


「はぁ?だったら結婚すんじゃねーよ!って、私ならたんか切って離婚だわ」


「だからね飛鳥?実家の為に自分を犠牲にして、夫を支える様に躾けられてるんだよ」


「……で?死に際に悔恨の涙流してどうすんの?……って思うじゃん?」


「それはそうだけど……ほら、昔はいろいろと外にも女性を囲えるわけだし、その、結婚といっても事実的には夫婦じゃなかったりね……」


「あーあるあるそんな話し。でもさ、外に作れちゃう旺盛なヤツだよ?据え膳食わぬは男の恥じゃん?……っていうか、女の立場から言わせてもらえば、その時はそうだとしても、一生手付かずで飼い殺されてもねぇ……ってあるよねー。まっ、女も旦那にこっそり隠れて浮気するだろうけど……」


「えっ……すんの?」


「そりゃでしょ?一生の内には……旦那がしてて、触ってくれなきゃ」


「飛鳥過激だ……」


「馬鹿じゃない?旦那に相手されなきゃ、そりゃ今でも昔でもでしょ?」


「……じゃ、しなかったら?それどころか、名前と同じ花を襖絵に描かせて、自分の部屋に飾ってたら?」


「そんな女いないでしょ?」


「いたとしたら?ご主人にはそういう関係を拒絶して、他に女性囲われて……」


「凄いお馬鹿さん……だけど、よっぽど好きだったのかしら?」


「愛していたんだね?」


「だろうけど、自尊心の塊だわね……そんな女、拒絶しても〝もの〟にしてあげればよかったのにね……」


「……してあげる?っすか?」


「だって、たぶん凄く好きだったんだよ。昔の女性って、そういうところあったのかなぁ?うーん……純愛ねー」


飛鳥は複雑な表情を作って言った。


「だけど、こんな内容はもはやありきたりよ……余程書き方が斬新じゃないと、誰も読まないわよ……」


「えっ?そ、そうかな……」


「まっ、貳瑰洞先生が書く分野ではないわねー」


……ま、まじかー?今日ずっとずっと先生は、そのありきたりとなっているストーリーに、頭を抱えていてズブの素人の要に相談してきたというのに?

そら耳といい今日一日途轍もなく頭を使ったので、要はソファーに崩れ落ちる様に腰掛けた。



翌日飛鳥の一言で気持ちが重くなった要は、大きくため息を吐いて先生の邸宅の呼び鈴を押した。


「おはようございます」


米子が真顔を作って迎えてくれた。


「あら?お元気ないわねー」


「あーいえ……おはようございます」


力無く首を垂れる。


「ほんと、仲がおよろしいわねー」


意味有りげに言う。


「はい?」


「先生も同じようですわよ」


「えっ?やっぱり」


「あら?」


要は急いで上がり框を跨ぐと、水仙の花の部屋に向かった。


……さすがに先生は大作家だから、当然の事の様に、ありふれた内容であると悟ったわけだ……


自分の無知を棚に上げて、要はそう思いながら障子を開けた。


「えっ?」


部屋の中を見て驚いた。

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