第11話
「どう?話しは進んでる?」
早めに帰らせてもらったので、一応編集長の羽鳥さんに報告がてら、連絡を入れると開口一番に聞かれた。
「はぁ。どうにか先生が悩んでいた、艶子さんが愛していた事は、解ったんすけどね……」
「艶子さん?」
「あー、落ちぶれ令嬢の艶子さん……という方がですね、成り金っていうんスカ?一代で財を築いた男に金で買われて……」
「ああ、海堂匠か?」
「えっ?編集長、先生から原案をお聞きで?」
「ああ……まあ……あそこには海棠の襖絵があるからねぇ」
「ありますあります。そりゃ見事な……まるで本当に花弁が散ってるみたいで……裏の花弁が舞い込んで来るらしいんすけど……」
「へぇ?君は見たのかい?」
「ああ、見ました!そりゃ綺麗でしたよ。本物かと思いましたよー。米子さんが裏の花弁だって……」
「ふーん?君は凄いねぇ裏のねぇ?……で?先生が執筆するから帰っていいって?」
「はい……僕が居ると、ちょっと邪魔しちゃうみたいで……」
「ええ?なんで?お役に立つ事はあっても、邪魔する事は無いと思うがなぁ?」
「ちょっと失敗しちゃって……実は……」
要は言いたくはなかったが、ご迷惑をかけた様なので、報告するべきと判断して、言いにくそうに報告した。
「すみません……何時もの部屋の襖絵の水仙の花が、ちょっと元気無い様に見えてしまって……」
「ええ!それは大変じゃないの?」
「……そうなんですか?米子さんにも先生にもそう言われたんすけど……その所為で執筆がちょっと遅れまして……」
「いや、いいいい。君さすがだ、お手柄だ」
「はっ?」
要は叱られるとばかり思っていたので、編集長の言葉に唖然として、道端で立ち尽くしてしまった。
「あそこの襖絵の花は、枯らしたらいけないんだ……よかったよかった」
「???……」
要は何故だか感嘆している、羽鳥の様子に再び立ち尽くす。
「……俵崎君、大手柄だねぇ。今日はそのまま帰っていいからさ」
上機嫌の編集長は、そう絶賛してくれると
「お疲れ様、明日も宜しく頼むよー」
と言って、要の返事も聞かずに切ってしまった。
「…………」
社会人になって僅か3ヶ月くらいだが、社会の荒波というヤツは、要には全く理解ができない。
何を褒められ、何を求められているのだろう?
そこのところが解らないと、次に活かせないではないか……。
……今日は沢山褒められた。あの米子迄褒めてくれた。だけど一体何を褒められたのだろう……
それにそら耳が酷くなっている、耳鼻科に寄って帰った方がよさそうだ。
近所の掛かりつけの耳鼻科に寄って帰ると、飛鳥も早く帰って来ていて、リビングで久しぶりに遭遇した。
「要ちゃん、久しぶりだねぇ」
「お、おう……」
「えっ?ちょっと元気無いじゃない?」
「う、うん……。帰りに耳鼻科寄って来たんだ」
「ええ?また中耳炎?中学生の時が、最後だったんじゃなかった?」
「はぁ……なんか……今日そら耳が酷くて……」
「そら耳?」
飛鳥は付けていた、テレビを切って聞いた。
「なんか……女性の話し声とか……泣き声とか……」
「聞こえちゃうんだ?」
「まあ……」
「……って、どうしてそれで耳鼻科なの?」
「えっ?だって、中耳炎が頻繁過ぎてちょっと難聴なんだよ」
「誰が?」
「俺が……」
要は自分を指差して言った。
「いつから?」
「幼稚園に上がる前から……」
「どうして?」
飛鳥は吃驚した様に言った。
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