第3話

「要君、そこの所がちょっと違うんだ」


「えっ?」


「二人は……夫婦ではなかったんだ」


「ええ?いやいや先生、金に物を言わせて妻にしたと……」


「そうそう!確かに妻だ妻。大仰な式も挙げたからね」


「……???……先生、言われている事が解りません」


「つまり……だなぁ、二人は本当の夫婦には、成っていなかったのだ」


「……………」


「つまり……つまりだねー。昔は意外とあった事なのだが、家柄同士で結婚させられたり、親が気に入らない嫁を押し付けたりした場合だね……」


「えっ?ええ!マジっすか?金に物を言わせて、手に入れておきながら?海堂は艶子と……してないんっすか?」


「うんうん……」


「うんうん……って、一生って言う落ちは有りっすか?」


「有るんだなぁ、これが……」


要は唖然としてしまった。

さすが小説だ。金に物を言わせて手に入れた、密かに愛した女性に海堂の様な男が、何もしないとは……。それも一生……。


……小説だから成せる技だ……。


要はもはや奇妙キテレツ感漂い始めた展開に、尊敬の念を抱き始めた。

これが飛鳥をも虜にする、甘美な流れというヤツなのか?情緒的というヤツなのか?

そんな言葉自体知らない要は、本気でそう思い始めている。


「それで?それでどうなるんですか?」


要は我を忘れて、先が気になり聞いた。


「要君……どうもこうも……愛人 にできた子供に、身代を潰されるんだよぉ」


「ああ……そうなんっすけど、艶子とはどうなるのかと……」


と言って我に返った。


「……そうでした、悔恨の涙を流して死ぬんでした……艶子を残して……」


「うんうん……」


先生は大きく頷いた。


「どうしてそんな事に?」


要の興味が海堂に向けられた。

小説の原案なのに、不思議と海堂に興味がいった。


「海堂君は初夜で、艶子さんに拒絶されたのだよぉ」


先生はさも、無念であるかの様に言った。


「えっ?拒絶っすか?海堂が?艶子に?またまた、なんで?」


「婚儀に顔を出した医者の後添えが、昔海堂と関係のあった女性でね」


「はぁ?またまた海堂は、めちゃモテキャラっすね」


「いや、要君。昔の男はそういうものだ。特に吐出して財を成す様な男は、女性が放っておかない……これは現代でも言える事だよぉ」


「そういうものですか?」


「うんうん」


先生は大きく頷いた。


「その女性が有る事無い事を艶子さんに吹き込んでね、艶子さんは良家の令嬢だから、そんな事は小さな頃より躾けられて育っていたからね、それは平然として相手を務めていたが、やはり金で買われた我が身を再認識したのだろうね?いざ床に入るという時に、洗いざらいを聞いてきた。当然の事ながら、本当の事もあったから、海堂は男らしく潔く認めたんだ」


「マジっすか?ええ?海堂は男らしいというより、潔いというより……それって一番ヤバいヤツっすよね?」


「うーん?どうやらそうらしい。艶子さんは良家の令嬢だから、きちんと躾けられてはいたが、しかし自尊心が強いというか……高慢というか……とにかく、自分に触ったら舌を噛んで死ぬ、と言って抵抗して、海堂君を激怒させたのだ」


「激怒って……」


「まぁ、腹を立てて部屋を出てしまったんだ。それだけならよかったが、海堂君もちょっと大人げないと言うか……とても愛していた艶子さんに拒絶された事がショックだったのか、そのまま女性の所に入り浸ってしまってね……」


「ええ?そりゃアウトですよ先生。それじゃ艶子は海堂を、愛してくれる訳がないじゃないですか?」


「そうかなぁ……アウトかなぁ?……」


「ダメです……たぶんきっと駄目です」


「しかしだね、昔の男はだね……」


「そういうものかもしれませんが……艶子に愛してもらうのは、かなり難しい状況になりましたよ……」


先生は渋い顔を作ったまま


「うっ……うーむ」


要に聞いたが為に、先生の思考回路がショート寸前となってしまった。







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