第2話
「うーん?そうかなぁ……やはりそこかぁ?」
先生は余計に顔を顰めて、考え込んでしまった。
「海堂は外にも女性を作って、子供を作っちゃうじゃないですか?艶子以外の女性には素直になれるんすか?」
またまた余計な事を聞く。
「要君……君は解ってないなぁ……この時代の男はいろんな所で……何だ……捌け口を見つけられた時代なのだ」
「でも、好きだったんすよね?」
「誰を?」
「相手の女性……艶子以外の?」
「いや、違う。海堂君が愛していたのは、艶子さんただ一人だ。他の女性は金で済ませられる女性だ」
「…………???」
要がフリーズする。すると先生も同様にフリーズした。
「……先生」
「はい」
「他の女性は金で済ませる、
「うんうん……」
「艶子は金で妻にした、
「うんうん……」
「先生……海堂は何をしたいのですか?」
「君の質問は何だろう?」
二人は首を傾げて、水仙の襖絵の前で正座して考え込んだ。
「僕は海堂の行動が解りません」
「ほお?どうしてかなぁ?」
二人は同じ一点を見つめている。ただ水仙の襖絵だ。
「どうして海堂は、金なのでしょう?」
「それは、海堂は金があるからだ。海堂は小作人の三男なのだが、そんな一生を厭がって単身都会に出て来て、体力には自信があったので、ありとあらゆる事をした。時代を見抜く能力があった為、ある実業家の目に留まって拾われてからは、メキメキと頭角を現したのだ」
「さすが先生です……そこまで海堂を、作り上げているんですね」
作家の〝さ〟の字も知らないから、とにかくそこまで詳しく、考えているのかと感嘆する。
「そうかなぁ……」
先生は有名な大先生には、見えない素ぶりで照れてみせる。
「頭角を現した海堂は、独立して自分の会社を持つのだが、目をかけてくれた実業家の後押しもあって、三十路を過ぎた頃には財を成していたのだ」
……凄えなぁ……さすが小説だ……
と、要はちょっと冷めた感覚で聞いている。
「だから、若い金持ちだから、女性にはモテたのだ。縁談も幾らでもあったし、粋なお姐さん達にも大モテだったのだから、それは……色々と浮名なども流した訳さ」
「なる程……お金持ちでモテるので、艶子を愛していて、尚も金で女を囲うのか……」
そういう話しならば、さすがの要にも理解ができる。
世の中の有名人は、いろいろとゴシップに忙しい様子は知っている。
「……といってもなぁ、それで艶子に愛して欲しいって言うのはなぁ……。艶子だって厭だと思いますよ……?」
「だが要君、艶子さんだって華族の令嬢だ。当時も今も力のある者は、女を囲うものだ。父も祖父もそうだったから、そういう環境に育っている。そうした夫を、寛大に大らかに包む様にして、支えていく術をきちんと躾けられている女性だ」
「はぁ?そんな躾けって有りなんですか?」
「有りなのだ」
要は眉間に皺まで寄せて、考え込んでしまった。
「それをいい事に、海堂は結婚しても女性を囲っていた訳ですね?」
「それは違うんだ。それは艶子さんが愛してくれないからだ」
「お金の為に結婚したんですからね?……それで、艶子は海堂を愛してくれるでしょうか?」
「そこなのだ要君。愛してくれないから、困っているのだ」
やっと先生が困っている所迄、辿り着いた感がある。
「それは困りますが……。自業自得の様な気もするんだが……」
「自業自得なのだ、自分で解っているから悔やんでいるのだ」
「誰がです?」
「海堂君がだよ……海堂君!」
おおそうだ!海堂は悔恨の涙を流して死ぬんだった……。
「一応後悔したんですね……当然だけど……」
「うーん……」
「それでバチが当たって艶子さんには子供ができずに、身代を潰す様な子供が愛人さんにできちゃったわけっすねー」
なんとも先生の苦悩を考えもせずに、したり顔で言う。
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