39回目:近合融也<苦しみの果て>
異世界転生させる人間の選び方は女神によって基準が異なる。私の場合、その人間が持つ英雄としての資質や、女神から与えられる祝福を遺憾なく発揮する才能も大切だが、それよりも、異世界に対する順応力の高さに重点を置いている。
噂に聞いた話だが、英雄の資質を持つ人間を異世界転生させるため、その人間の運命を操ることによって、トラックなどを使って事故死させる女神もいるらしい。この噂が真実であるならば、人間の命を軽視する所業に、私は
さて、今回、私が異世界転生させた人間は、
異世界への順応力の高さを
レンガ造りの建築物が立ち並ぶ街の中心に位置する噴水広場で、先ほど異世界転生したばかりの
「……俺は女神に選ばれて異世界に転生した。俺の使命は邪神復活を阻止すること。そのために、俺が女神から授かった力は、……敵を倒すことで、その力を取り込むことができるというものか。ゲームで言うところの、経験値を稼いでレベルアップ、の感覚か」
私は
「まずは冒険者ギルドで難易度の低い魔物討伐の依頼を受けて、お金を稼ぎつつ、強くなる必要があるな。……夢の異世界生活を楽しむのは、それからでも遅くない」
早速、冒険者ギルドで世界最弱と名高い魔物討伐の依頼を受けた。その魔物は森に生息し、カバにウサギの耳を付けたような外見をしている。体長は八十センチほどで、動きは鈍く、木々の枝で少し体が傷付くだけで、数時間後には死んでしまう虚弱さだ。
「……これって、わざわざ退治する必要あるのか? 放って置いても勝手に死ぬと思うんだけど。……ん、なるほど、老衰で死んだ時に限り、猛毒の霧を広範囲に撒き散らすのか。そうなる前に駆除する必要があるわけだな」
私が授けた知識を参照して敵の情報を得た
「この世界には
「よし、あれを退治すればいいんだな。最弱の魔物とはいえ、倒すことで少しくらい俺の力も上がればいいんだけどな」
右手を魔物に向けて、狙いを定める。そして意識を集中し、体の奥底から魔力が湧き上がるのを感じ取った
「……お、おお……」
「な、なんだよこれ!? ……俺の手が……動物のような手になって……、この手は、さっき倒した魔物の手のような……? まさか、こういうことなのか……? 倒した敵の力を取り込むって……、俺自身が魔物になるってことなのか?」
断じて違う。これは想定外の事態だ。私の女神の祝福の術式に、何か間違いがあったのだろうか。いや、その可能性は低いだろう。私ほどの女神が術式を間違えるなど、考えられないからだ。
「じょ、冗談じゃねえ! 魔物になんかなってたまるか! ……元に戻るには、どうすればいい? ……クソッ! なんでわからないんだよ! これこそ必要な知識だろうが……」
頭を抱え込んで苦悩する
「元の、人間に……、人間に、戻る……そうだ! 人間になりたければ、人間を倒せば……」
いや、それは非常にマズイです。やめてください。そんなことをすれば、外見は人間に戻れたとしても、人間の心を失ってしまう。
しかし、私の必死の呼び掛けも
「は、ははっ! これで、俺は人間に戻れるはず……だ!?」
突如、左足から地面を踏みしめる感覚が消失し、その場に倒れ込んでしまう。
「……なんで、だよっ! ふざけんな!」
「……ああ、俺が、俺に戻るための材料が……、まだ、たくさんあるじゃないか」
すでに
「オオ……俺の……カラだァ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます