29回目:落谷浩伸<魔を封じる伝説>
三百年前に魔術という力が失われた世界へ転生した
疲れたような顔に無精髭を生やした
だが、おかしいと思いながらも、まるで自分を
大地に突き刺さった幅広の両刃の剣は、そこに突き立てられたのがまるで最近のことであるかのように、刀身は錆びることもなく、日の光を反射して輝いていた。
剣の周りに目を向ければ、おそらく剣を囲うようにして石柱が立てられていたのだろう。いくつもの崩れた石柱の跡が時の経過を感じさせた。
「……ここは死後の世界なのか、それとも、これが噂の異世界転生ってやつなのか?」
目の前にある剣を凝視しながら
「大地に突き刺さった剣なんて正直言って怪しいが、しかし、ここが異世界で、これが俺の冒険の始まりなら、この剣を抜くことで物語が始まるはずだ。……そもそも、抜けるかどうかもわからないし、とりあえず試すだけ試してみるか」
そう言って封魔の剣の柄の部分を、両手でしっかりと握り締めた
「ぬ、ぐ、ぐ……ぬあっ!!」
気合いの声と共に大地の鞘から剣が抜き放たれる。
だが、次の瞬間には刀身が黒く濁ったかと思うと、砂のように崩れ去ってしまった。
「……」
腕を掲げた状態で、
気が付けば、あたりは薄暗く、そして、風が強く吹いていた。空を見上げれば、灰色の雲が遠くの空まで広がっている。
「一雨来そうだな……」
いつまでもここにいても仕方がないと結論付けたのだろう。
冷たい風が、ガサガサと木々の葉を揺らしている。どこからか、獣らしき鳴き声が風に乗って聞こえてくる。
不安を感じながらも、森の道を一時間は歩いた頃、前方からこちらへと向かってくる人影に気が付いた。
「……女の子か」
年齢にして十五歳くらいだろうか。まだ幼さの残る顔つきをした少女が、強い風から守るように薄緑色の髪を手で押さえながら、
「あの、こんにちは。旅の方ですか?」
若干の警戒心を持ちながらも、少女が声を掛けてくる。その質問に、
「ああ、結構遠くからね」
「そう、なんですね」
少女は
それに気が付いた
「グギルルギュルウ……」
怪物は二本の足で大地を踏みしめ、体の大きさは
直感的に危険を感じ取った
「そんな、どうして魔物が……」
荒い息と共に少女が呟く声が聞こえる。
「魔物は、三百年前に、魔を封じる剣に、すべて封じられたって、聞いていたのに」
……ん? 魔を封じる剣に封じられた?
……いや、気のせいだろう。まさか、少女の言う魔を封じる剣が、
「しまった、崖か!」
崖は細く、横へ逃げることはできそうにない。崖下を覗き込めば、底が霞んで見えるくらいの高さがあった。そして、そうしている間にも、魔物は速度を落とさずに突き進んでくる。
魔術の失われた世界で、唯一、
そして、
「っ!?」
驚愕の表情を浮かべた
何故、
そういうこと、だったのだ……。
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