26回目:鳥津歌琴観<風と空の大地>

 どこまでも続く青い空が鳥津歌とりつか琴観ことみの前に広がっていた。


 空の惑星スカイヒメル。空だけが存在する、陸も海も存在しない世界。

 生前は空を飛ぶことに憧れ、ついにはビルの屋上から飛び降りて命を落とした琴観ことみには、まさにうってつけの世界だろう。


 どこまでも落ちて、そして、どこまでも浮かび上がる。

 たまにすれ違う人が挨拶してくるが、琴観ことみが挨拶を返す前に視界から消え去ってしまう。


 お爺さん、赤ん坊、幼い女の子、マッチョ、魔物、……どのような力が働いているのか、女神である私にもわからないが、この世界の住人は皆、何かの力に流されるがままに大空を飛びながら生きているようだ。


 この世界を転生先に選んだ私が言うのもなんだが、……何、この世界。


「あはははは~」


 琴観ことみが能天気に笑っている。飛んできた芋をすれ違いざまに掴み取り、火の魔術で焼いて食べ始めた。


 それからも何度か人とすれ違いはしたものの、琴観ことみは結局、この日は誰とも会話をすることができなかった。日が落ちて、あたりは暗闇に包まれる。大きな欠伸あくびとともに襲ってきた睡魔に抗うこともなく、琴観ことみは深い眠りに落ちていった。



 翌日は雨だった。たぶん雨だと思うのだが、四方八方から降り注ぐ雨を受けてずぶ濡れになりながら、琴観ことみは雨の中を泳いできた魚を捕まえて食べていた。


 この日は少しの間だけだが、偶然にも大空を流れる方向が同じだった、一人の魔術士のようなローブを身に纏った女の子と話をすることができた。彼女の話によれば、魔王は南の方角にいるらしい。聞けた情報はそれだけだったが、大きな進展かもしれない。


 そして夜が来て、琴観ことみは、この世界で二度目の眠りについた。



 しかし彼女が目覚めることは二度となかった。飛んできた槍に串刺しにされたのだ。なんという悲劇だろうか。無防備な状態であった彼女にはどうすることもできなかったのだ。


 こうしてまた、ひとつの物語が幕を閉じた。


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