19回目:紫乃森沙織<心王の聖剣>
女神の祝福。それは世界を閉ざす闇を打ち払い、平和と
「異世界に来て最初のイベントがドラゴン退治って、どうなってるの?」
彼女の目の前には、全身が氷の鱗で覆われた白い竜が
「まあ、やるしかないけどね。そうしないと、私も、この街も、みんなおしまいなんでしょ」
突如として飛来した白竜の
刹那、白竜の顎牙が
「ギュアアアアアァァァ!!」
白い鱗が赤く染まる。返り血を浴びた
街を襲った白竜が討伐されたことを知った人々は歓声を上げ、
(ちょ、ちょっと、さっきから何なのこれ!?体が勝手に動いてるんだけど!?)
(ちょっと!ちょっとってば!!止まって私の足!なんなのも~!!)
(少シ静カニスルガイイ、我ガ主ヨ)
(な、何!?誰!?)
(我ハ聖剣ベーゼブルート。女神ノ祝福ニヨッテ意思ヲ与エラレシ者ナリ。我ガ主ヨ、今、汝の体ハ我ノ支配下ニアル。我ニ任セヨ。サスレバ世界ノ救済ナド
ああ、なんということだ。聖剣の使用者が自身の力で自滅しないようにと、聖剣自身が力を制御できるようにと意思を持たせたのが裏目にでたようだ。
(ふざけないでよ!そんなこと望んでない!私の体、返してよ!!)
聖剣ベーゼブルートは、それ以上
途中で出会った魔物は片っ端から斬り伏せた。何者もベーゼブルートの歩みを止めることはできない。そうして、一度の休息もなく、ベーゼブルートは目的地に向かって歩き続けた。
(……ね、ねえ。少し、休ませて。私……もう……)
その言葉にもベーゼブルートからの返事はない。
いつしか、
数ヶ月が過ぎたある日のこと、ベーゼブルートは魔王城を一望できる崖の上に立っていた。今や
魔王城を見渡していたベーゼブルートは、誰かが近付いてくる気配を感じ取り、そちらに向き直った。しばらくして見えた人影は、それぞれ、騎士、魔術士、神術士と思われる三人の女冒険者たちだ。ここまで来られるからには、それ相応の
「貴様、魔王の手の者か?」
騎士が
剣の打ち合う音が響いた。一撃目を防がれた騎士は、二撃目、三撃目と攻撃を重ねていくが、ベーゼブルートは身を
「くっ」
間一髪、斜め後ろに身を引いて攻撃を避けた騎士だったが、ベーゼブルートの追撃が迫る。しかしそこへ、神術士が手にした杖をベーゼブルートへ向けて、叫んだ。
「
神に祈り、神の力を借りて放たれる一撃。邪悪を滅する光がベーゼブルートを包み込んだ。だが、そのような聖なる力はベーゼブルートには通用しない。何故ならば、ベーゼブルートは女神の祝福を与えられた聖剣なのだから。
「効いていない!?」
驚愕の表情を浮かべる神術士と、それを見て詠唱を開始する魔術士、そして、騎士が手に持った剣を水平に構えた。
「下がってるんだ、メリア!……女神フラウヒュムネよ、我が聖剣よ、私に力を!!」
騎士の体が淡く白い光に包まれる。直後、まるで閃光のような一撃がベーゼブルートに襲い掛かる。これを受け損ない、胸を貫かれるベーゼブルートだったが、今や骨となり、操り人形に過ぎない体には痛くも痒くもない損傷だ。
それは騎士も承知の上なのか、すぐさま次の攻撃を繰り出してくる。その猛追にベーゼブルートは防戦一方だ。そして、魔術士の詠唱が完了し、それを察知した騎士は素早く後ろへと距離を取った。
「
空間が歪み、黒い魔力がベーゼブルートを襲う。聖剣を盾にするかのように防御の構えを取るベーゼブルートに対して、凄まじい衝撃と共に空間が
ベーゼブルートは剣を構えなおすが、動きが若干鈍い。そこに騎士が追撃をかけてきた。一撃、二撃、三撃と続く連続攻撃を前に、ベーゼブルートは右脚の力が抜けたかのように体勢を崩した。
「はぁぁぁぁっ!!」
これでとどめとばかりに、騎士は
肩から腰にかけて、縦に骨が斬り裂かれた。頭と右腕が滑り落ちる。いかにベーゼブルートといえど、この状態では戦闘の続行は不可能だ。だが。
「アリシア!!」
悲痛な叫び声が響き渡った。アリシアと呼ばれた騎士に駆け寄る魔術士と神術士の表情は蒼白だ。それもそのはずである。騎士の背中からベーゼブルートの刀身が生えているのだから。
地に倒れ伏す騎士を中心に、地面が赤く染まっていく。神術士が治癒術を試みるが、それは無駄な足掻きである。死んだ者を蘇生させる事などできないのだ。
かくして、女神の祝福を授かった二人の転生者の物語は幕を閉じた。
後日、異世界救済率96.3%を誇るエリート中のエリートである女神フラウヒュムネの祝福を授かった転生者が倒されたという情報が、女神回覧板で回ってきたのであった。
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