16回目:飯塚京星<果て無き荒野>

 疲れたし、めんどくさい。今は、そんな気分だ。


 私は死にひんした英雄候補となりうる人物に祝福を授けて、異世界へと転生させる女神だ。滅亡の危機におちいった世界を救うのが目的ではあるが、それがなかなか上手くいかない。何度繰り返しても失敗する。まだまだ私が新人のひよっこであることは確かだが、それでも一度くらいは世界を救えてもいいじゃないか。


 私は重苦しいため息をついた。

 こんな気分の時は仕事に身が入らないけれども、だからといって仕事を放り出すわけにもいかない。とりあえず、英雄候補を探して、ああ、あの彼でいいかな、うん。そして、身体強化や魔力を扱う才能、それと追加で、大気の魔力を吸収して自分のものにできる特殊能力

を与えて異世界転生させる。


 異世界に転生した彼――飯塚いいづか京星きょうせいは、最初は自分の置かれた状況を理解できずに慌てていたが、すぐに自分が何をすべきかを把握して動き出す。多くの異世界で旅の出発地点となる冒険者ギルドへ向かう途中で、何か慌てた様子の美少女と知り合い、彼女の手助けをしてあげた。彼女は領主の娘のようで、娘を助けてくれた京星きょうせいを領主は歓迎した。


 うん、順調な滑り出しだ。この調子なら、しばらくは大丈夫だろう。京星きょうせいは豪華なベッドで眠るようだし、私も寝るとしよう。また、明日。




 翌日、私が見たのは荒野と化した王国だった。京星きょうせいが昨日いた場所を中心に大爆発が起きたように思える。何が起きたのか詳しく調べてみると、すぐに原因が明らかになった。

 京星きょうせいに与えた大気の魔力を吸収する能力が本人の自覚なしに、さらに際限なく発動し続けた結果、京星きょうせいの体が限界を超えて爆発してしまった、と。


 うん、不幸な事故だ。しかし、王国ひとつを地図上から消してしまうほどの凄まじい爆発、これを何かに応用できないだろうか。たとえば、魔力吸収能力を与えて魔王の近くに送り込むのはどうだろうか。……いや、やめておこう。そんなことをして世界を救っても、ほかの女神たちから非難を受けそうだ。


 とにかく、今回も失敗だ。ああ、疲れたし、めんどくさい。今度、女神の同期生を誘って旅行にでも行こうかな。


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