第五章
第五章
カーチェイスをするように飛ばした車は、オフィス街を抜け、商店街を抜け、住宅地を抜け、バラック街にやってくる。
順恵「先生、なんですか、こんなところ。一体何になるんです?」
さすがに困惑しているようである。
りま「いいのよ。ついてきなさい。」
順恵「はい、、、。」
りま「一番奥の一番小さいバラック。」
そう。望月と書かれているバラックの前でりまは車を止める。
りまはどんどん車を降り、バラックの戸を叩く。
りま「すぐにあたしたちを入れて。もしかして嗅ぎ付かれるかもしれない。昨日いった通り、生徒を一人連れてきたのよ。」
優の声「汚いところですが、どうぞ入ってください。」
りまはさっさと戸を開けてバラックに入ってしまう。
りま「入りなさい。」
順恵「はい。」
と、りまに続いてはいる。
中は、革のにおいが充満していて、むさくるしいほどであるが、順恵は平気だった。むしろ、机代わりのリンゴ箱の周りに並べられた、革製のカバンたちを、じっと見つめた。
順恵「あの、」
優「ああ、しばらくここにいてくれていいですよ。どうせ、こんなところですから、変な教師も追いかけてこないでしょう。教師みたいな偉い人は、こういう身分の人間を好きになるとは到底おもえませんしね。だから、大丈夫ですよ。安心してくださいね。」
順恵「あなたは、、、。」
優「ああ、かわたの望月優です。」
順恵「あの、小久保順恵と申します。かわたさんって、本当にいたんですね、私、昔の問題だと思ってたけど、今でもこうしてつらい生活をする人がいるんだ、、、。」
優「はあ、授業では、単に名前と漢字くらいしか教えないでしょうからね。いま皆さんの教科書にはえたとか、ひにんとかそういう書き方をしているでしょ。僕らの故郷ではえったぼしと呼ばれていましたけどね。全国いろんな名前があるけれど、やることはこのようなことです。死んだ牛の革をはぎとり、カバンなどに加工すること。それしかないですよ。」
順恵「どうして、そういう職業にしかつけなかったんですか?江戸時代はとっくに終わってるし、今はいろんな職業に着けると学校で習いました。」
優「いやいや、かわたはいつまでたってもかわたのままです。なぜかというと、住んでるところでもうわかってしまうからですよ。そういう人がたくさん住んでいて、名前を聞いただけで、あ、この区域汚いなっていう地名があるところもある。そういうところを今の時代はなんていうんだっけ。」
順恵「被差別部落、ですか?」
優「まさしくその通り。あなた、学校が苦手なようだけど、勉強したことはちゃんと頭にはいっているんですね。」
順恵「でも、私は、もうだめなんです。だって、私も、経済的に余裕がなくて。だから大学はいけないんですけど、学校の先生たちは、私を何とか大学にいかせようとする。私の家族が、伝えたって駄目でした。学年主任の先生は、私に、新興宗教のような形で、洗脳しようとして、私は、りま先生と一緒に、見せしめにされて、体罰を受けたのです。本当は、学年主任の先生とお話があったのですが、それも怖くて。」
優「そうですか。それなら、高校から逃げてもいいんじゃないですか?」
順恵「でも、そうしたら、より不利になってしまうのではありませんか?」
優「変に洗脳されるよりはいいと思う。そうなると、そこから、解き放たれるのは非常に難しいですよ。僕も、中卒のまま、家を飛び出してきてしまいましたけど、出身地を履歴書に書いたら、採用を取り消されるのが常で。まあ、学校に行っても同じですよ。点数だけが支配しているような世界でしょ。だからいても仕方ないと思いますよ。それにね、学生ってのは、身分が保証されすぎているからでしょうか、不利な点があると、必ず面白がるものですよ。」
順恵「不利な点?」
優「はい。僕もえったぼしと何回からかわれただろう。それに、定期試験の点数を、金を出して買いあうという八百長も非常に多くありましたし。平気でカンニングして、それを全部僕がやったことにしたりとか、もっと幼いころは、ドッジボールを集中的にあてたりとか。ほかの人と違うってことは、そんなに罪ですかね。」
順恵「そうなのよね。ちなみに、私も中学校の時に八百長がありましたよ。わざと答えを教えておいて、その代金を支払ってました。私は、しっかり試験勉強して、何も関与しなかったけど、そのせいで私は、上級学校に進学できなかったんですから。気に入らないものをこういうやり方でもみ消そうとする精神は、どこの世界にもあるんですよね。本当に、誰でも同じであるってことはあり得ないことなのにね。」
優「今でも八百長が?」
順恵「ええ。私もその被害にあいました。いじめられて、あんまり学校に行けてなくて、やむをえず、富士宮東に入ったんです。でも、はっきり言って地獄ですよ。誰も授業を受けようとしないし、周りの人はうるさいし、携帯電話でゲームしたり、髪は染めるし、床で寝るし。こんなところが本当に高校なのかと思いました。そして、先生も、平気で生徒に体罰をして、あざが付くまで殴りました。はじめのころは、先生の言うことも、気にしないでいましたけれども、でも毎日毎日、大きな声で、死ね死ね死ね死ねと怒鳴り続けられて、なぜか、本当に、勉強をしないと、自殺をしなければいけないように世の中ができていると思うようになったのです。」
優「具体的に何を言われたのですか?」
順恵「ええ、一番犯罪に走りやすいのは無職と教えられました。そして、そうなると、家も住むところも、食べ物も与えられずに発狂し、犯罪を犯していくと教えられました。それを乗り越えるためには国公立に行くしかないと教えられました。私も、父や母が一生懸命働いて私を育ててくれたことはよくわかるから、その恩返しはしなければならないなと思っていたのですが、国公立に行かないと、それはできないと教えられたのです。はじめは、就職するのだからそうはならないと思いました。でも、毎日毎日、国公立へ行かないやつは死ねと怒鳴られていると、そうしなければいけないのではないかと思ってしまうんです。最近は、家族が働いてくれるのは、私が原因だと思うようになりました。就職したほうが家族は喜ぶんじゃないかと思っていたのに、いつの間にか、進学したほうが喜ぶって、考えが変わってたんです。なぜ、そうなったのかは自分でもわかりません。ただあるのは、その先生方の国公立に行かなければ死ね!という怒鳴り声だけです。」
優「すごいマインドコントロールですね。なんか、どこかの新興宗教みたいですよ。あるいは、テロ組織に近いかもしれない。」
順恵「ええ、ええ。きっと生徒を従わせるためだから気にするなと言われたけど、いつの間にかそうしなければいけなくなっている自分がいました。」
優「ああ、そうしなければ、学校でやっていけなかったから、マインドコントロールされてしまったんですよ。えったぼしは、原因がはっきりわかっていて、どこへいっても同じように扱われるから、まあ、そんなものかで片付けられるけど、あなたは、そうじゃないから余計に戸惑いますよね。それに、まだ高校生となれば、何も知らないでしょうから、それがすべてと信じ込んでも不思議ではないです。だから、何も悪くありません。むしろ、被害者として、堂々としているべきです。でも、驚きました。今もそうやって、八百長が平気であるんですか。もう少しましになっているかと思ってましたけど。」
順恵「ええ。きっと、もっとひどくなっていると思います。」
りま「そうよねえ、ゆとり教育なんてばかばかしいことやっているから、余計にこっちは疲れる一方よ。だって、私たちは、授業時間は減らされるのに、進学率はあげなきゃいけないんだから。先生だって被害者なのよ。」
順恵「いいんですか、先生。そんなこと言って。」
りま「いいのいいの。ここでは教師も生徒もえったぼしも何もないの。そんな余分な称号、取っ払ってしゃべりましょ。あたしだって、学年主任の言ってることはめちゃくちゃだってはっきりわかるし。」
順恵「先生が、私の事をそう見てくれるなんてちっとも気が付きませんでした。ごめんなさい、先生。あんなひどいこと言って。」
りま「いいのいいの。もう、本音で話せるだけでも私は幸せよ。生徒にはかっこいいこと平気で言うけど、実際は、もうね、疲れて疲れてしょうがないんだから。ある意味教師という職業も一種の八百長になるのかもね。」
優「でも、驚きました。僕は中学までしか行ってないけど、いまはもっと悲しい場所になってしまったんですね、学校は、、、。なんか、本当に変なところばっかり、日本政府は気にしすぎてますよね。」
順恵「私もこれから、どうしたらいいものかわからなくなってしまいました。なんか正直言うと、高校にはもう通いたくありません。あんな動物園見たいなところ、いても苦しいだけですし。でも、高卒の資格は取らないと社会的に不利になってしまうことも間違いなく事実ですし。日本では、学校に疲れたらしばらく休みたいという制度はないから、一度学校から外れたら、もう、二度と帰れないことも知っていますし、、、。」
優「そうですね、僕は、経済的に無理だったので、受験というものはしませんでしたけど、そうはいかないでしょうからね。僕は、理由がはっきりわかっていますが、順恵さんは、他の人とほぼ同じ立場で高校に通っていたわけですから、それが一番つらいでしょう。非常に難しいところですよね。」
りま「私、行ってしまえば、向いていない高校にいるよりもさっさとリタイアしてしまえばいいんじゃないかと思うわ。だって、就職を目指してるのに、進学の勉強をしているのでは、
余分なことばっかりで、肝心なことはなにももらえないんだし。それだったら、高卒の資格なんて簡単にとって、社会に出て、働いたほうがよっぽどためになると思う。だから、高等遊民のほうがよっぽどろくでなしだと思うわよ!」
優「何か方法ないですかね。僕も何か力になりたいですよ。ここまで真剣に悩んでいる人は少ないと思いますし。馬鹿な人の相手はほかの人に任せて、自分の生き方を貫いてほしいなあと思いますね。それがほかの人とは多少違っていても、です。」
りま「じゃあ、もう、学校変わったらどう?それしかないと思うわよ。そうやって、苦しんでいるんだったら、さっさと変わったほうがいいわ。」
優「でも、どうやって見つけるんですか?」
順恵「ええ、私も通信制に行きたいとか思ったこともあったけど、近くの通信制の学校は、進学校化してしまったみたいで、意味がないと思ったのです。」
りま「ああ、そうか、そういえばそうね。インターネットで調べられないかな。」
優「でも、ここはパソコンを置くことはできませんよ。こんなバラック街なんですから。それに置くための机もなく、リンゴ箱しかないし、、、。」
りま「そうか、じゃあ、私が何とかするしかないのか。」
優「でも、りまさん、それはやめたほうが良いのでは?だって、他の生徒のこともありますし、他の先生との軋轢の原因にもなりかねないですよ。」
りま「もう学校なんてどうでもいい。八百長はやめる!」
優「それだけは、」
りま「いいの!幸い貯金もあるから。食べ物にはしばらくは不自由しないわよ。」
優「ならいいんですけど、、、。」
りま「じゃあ、今すぐ取り掛かったほうがいいわ。あたしは、なんとしてでも彼女を救いたいんだから!」
優と、順恵は顔を見合わせる。順恵は不安そうだったが、優がその肩を優しくたたいてやる。
りま「明日から変わるのよ!あたしたちが、何とかしなきゃ、変わっていかないわ!あーあ、久しぶりに本気でやろうという気になった!」
優「とりあえず、必要なものは、、、。」
りま「パソコンよ!告発するには不可欠じゃない!優さんにもこのバラックから出てもらう。こんなバラックに住んでいるんだったら、馬鹿にされて当り前よ。そうじゃなくて、しっかりとした鉄骨のアパートを借りて住んでもらうわ。」
優「でも、僕は、家賃を払うこともできないので、、、。」
りま「じゃあ、私の部屋に来て!何とかしてスペース作るから。それか、もう八百長はやめるんだから、新しいマンションに二人で暮らすわ。」
優「この仕事の道具もみんなもっていかなきゃいけないし、、、。」
りま「いいえ、私は作戦があるの。聞いて。」
順恵「なんですか?先生。」
りま「この革細工を展示物にするの。そして、学校がいかに力のないのかを示すのよ。具体的にどうするかっていえば、レザークラフト教室にするのよ!そして、学校にいけない子たちや、障害のある子たちを入れて、展示会を開くのよ!」
優「よしてくださいよ!えったぼしが個展を開くなんて、まさしく八百長と言われてしまうでしょう。えったぼしは、底辺にいて当たり前なんです。」
りま「そうじゃなくて、これだけ奇麗なカバンをつくれるんだから、それを売りにするの。えったぼしが作ったなんて公表する必要はないわ。私、教員だったからわかるけれど、今の学校では、あなたが考えているほど、部落問題を強調して教えたりはしないわよ。だから、はじめのうちは隠していたって大丈夫!若い人は、そのかばんのかっこよさに、飛びついてくると思うわよ。部落問題なんてこれっぽっちも知らずにね。」
優「そうでしょうか。」
りま「そうよ!あなたが気にしすぎなのよ。いろんなことを。あなたって、本当に過敏
な人ね。もう少し、堂々としてもいいのよ。」
優「まあ、そういえばそうですけど、、、。」
りま「じゃあ、この作戦はすぐに決行よ!もう、待っていられないわ!私明日辞表だしてくる。優さんも、このバラックを引き払う準備を済ませておいて。新しいマンションだって、今は、すぐに見つけられるし。家賃だったら折半でかまわないわよ。」
優「わ、わかりました。」
順恵「優さん、私がマンションを探すのを手伝います。」
りま「ほら!助っ人が出たんだから、明日には、不動産屋さんにいって探してきましょうね。」
優「は、はい、、、。」
順恵「優さん、富士駅の近くに来ることはできます?」
優「まあ、歩いて15分くらいですね。」
順恵「じゃあ、来てください。近くにいい不動産屋があるんです。そこで相談しましょう。私が主導しますから、優さんは何も言わないでください。」
優「は、はい。わかりました。」
りま「よし!じゃあ、順恵さん、それはお願いね。こんなバラック、さっさと引き払いましょうね。」
順恵「じゃあ、明日の十時に富士駅の南口にいらしてください。」
優「わかりました。」
りま「じゃあ、私は看板屋に行ってくる。」
優「看板屋で何をするんですか?」
りま「決まってるじゃない、教室の看板を作るのよ。教室の名前、何にする?まず、それを始めなきゃいけないわ。」
優「単に、革細工教室でいいんじゃないですか?」
りま「それじゃダメ!もっとかっこいい名前にしなきゃ。革細工なんて日本てきな名前は付けないほうがいい。」
優「思いつきませんね、適当だけど、革の袖とか、、、。」
順恵「革の袖?」
優「はい、かわのうたではかっこつけすぎるし、それよりも悲しみもちょっと含めて。」
順恵「ああ、確かに袖ってのは、悲しみの象徴と、古い和歌には書いてあったわね。」
りま「なるほど!順恵さんよく覚えてくれたわね。そうしましょう。革の袖。ちょっと飾りをつけて、レザークラフト革の袖。これでどう?」
優「いいと思いますよ。レザークラフトといういい方は、なかなか言いにくい呼び方ですけど、、、。」
りま「ダメ!それには慣れてもらわなきゃ。それは言えるようにならなきゃだめよ。必ずよ。あとえったぼしという言葉もだめですからね。」
優「わかりました。」
りま「じゃあ、明日、順恵さんと優さんは、不動産屋に行って。私は、看板屋に行ってくるから。ひとまず、ここはお開きにしましょうか。」
優「はい、わかりました。」
順恵「じゃあ、必ず来てくださいね。」
りま「よし!バラック生活ももうすぐ終わりよ!順恵さんひとまず帰ろうか。」
順恵「私、電車通学ですよ。」
りま「なら家まで送るわ。もう学校には戻らないほうがいいと思うから。」
順恵「でも先生、道を知っているんですか?」
りま「何を言っているの?家庭訪問したことあるでしょ。それくらい覚えてるわよ。それに私の車、カーナビあるし。」
順恵「わかりました。じゃあ、乗ります。」
りま「それじゃあ、帰りましょ。」
優「気を付けて帰ってくださいね。」
りま「わかったわよ。また明日来るからね。早く荷物まとめなさいよ。」
順恵「じゃあ、失礼します。」
二人、バラックを出ていく。しばらくして、車が走り去っていく音。
優「本当にこれでいいのかな、、、。」
と、額に巻き付けた鉢巻にてをかける。鏡はないが、その顔に何があるのかを彼は知っている。
翌日。日吉不動産の前。順恵と優が、窓ガラスに貼られている物件一覧を見ている。
順恵「やっぱり、男性といえども、2dkは必要なんじゃないですか?例えば、一つを寝室にして、もう一つを仕事場にするとか。」
優「いや、リンゴ箱と道具が置ければそれで充分です。今まで畳の上に浴衣をかけて寝ていたんですから。」
順恵「それでは、暮らしぶりがわかってしまいます。せめて布団を置くところと、仕事をする部屋は別にしないと。」
優「それでは、家賃が高すぎてしまうような。」
順恵「いくらくらいなら出せるんですか?」
優「三万くらいかな。」
と、店の戸ががらりと開く。
店主「お二人さん、何を探していらっしゃるのですか?」
順恵「この人が、住むところを探していて、私は手伝いをしています。」
店主「ああ、希望する家賃は?」
順恵「三万だそうです。」
店主「そうですか、いいところありますよ。中に入ってもらえますか?詳しくお伝えしますから。」
順恵「じゃあ、お邪魔します。」
優「お邪魔します。」
軽く一礼して二人は中へ入る。
店主「はい、ここね。ちょうど、ひと月前に建てられたばかりですから、奇麗で新しいですよ。どうでしょうか。」
と、物件の間取り図と、写真を出してくる。
優「写真だけではなんとも、、、。」
店主「じゃあ、見に行ってみますか?お二方とも時間があるのなら、行ってみましょうか。」
順恵「はい。」
優「お願いします。」
店主「わかりましたよ。じゃあ、二人とも乗ってください。」
と、店の前に置いてあったワゴン車に乗る。優と順恵も後部座席に乗る。車は、駅前の公園を通り過ぎて、ショッピングモールの近くでとまる。
店主「はい、ここですよ。どうですかね。」
優「す、すごい高級、、、。」
そこは、大変立派なマンションで、バラックとは偉い違いだった。鉄骨の壁にしっかりと防犯のかかったドアが立ち並び、宅配ボックスも、郵便ポストもついている。
優「これで本当に三万なんですか?」
店主「はい。そうですよ。どうしてそう思うんです?」
順恵「優さん、マンションと言ったら、これくらいが当たり前なのよ。」
店主「中に入ってみますか?ちょうど空き部屋ですから。」
店主は、109と番号が振られたドアを開ける。ちょうど、角部屋になっていて、南向きの、日当たりのよい部屋である。
優「わあ、まぶしい、、、。」
順恵「カーテン付けるから大丈夫。」
店主「間取りはご覧の通り2DKです。台所も、コンロが二つありますから、やりがいも出ますよ。洗濯機と冷蔵庫はここに置いてくださいね。で、浴室とトイレは別になっていますが、男性でも最近は別のほうを好む方が多いですからな。」
優「僕は、冷蔵庫も洗濯機も持ってはいませんが、、、。」
店主「持っていない?」
優「ええ、たらいで洗ってました。」
順恵「いえいえ、そんなこと言わないで。これを機に、新しい洗濯機を買ってもいいじゃないですか。それに、リサイクルショップとかで買えば、安く入手できますから。」
優「でも、そんなもち合わせありませんよ。」
順恵「じゃあ、私が出しますから、リサイクルショップへ行って買ってきましょう。」
店主「あの、あなたは一体、」
順恵「ああ、この人は、違うんです、長く入院していたから、外の世界をあまりよく知らないんです。」
店主「へえ、その年でですか?」
順恵「だって最近あるじゃないですか。」
店主「ああ、精神の?そうなると、また契約の仕方も変わりますよ。」
順恵「いいえ、精神ではありません。でも、長くいたんです。だって、入院が長く必要になる病気はたくさんあるじゃないですか。そのくらい考えてくれたっていいじゃないですか。」
店主「ああ、わかりました。じゃあ、今は普通に働けているのですね?」
順恵「ええ、もちろんですとも。気にしないでください。」
店主「わかりました。じゃあ、どうでしょう、契約しますか?」
順恵「ほら、優さん、早く!」
優「わかりました。契約します。」
と、恐る恐る店主からわたされたペンを出し、指示されたところに、望月優と書く。
店主「じゃあ、これから、引っ越しの話とか、進めていきますので、一度店に戻ってください。」
三人は再び車に乗り込む。途中、黒雲が空を覆ってきて、車軸を流すような雨が降るが、車は迷わずに走り、店に戻っていく。
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