10-3 客人のお悩み相談

***


 あの、あの、私、ディジェと言います。

 えっと……、いま二十六歳で……、ここから二十キロくらい離れたリコリコの村から、来ました。

 主人と……、五歳の息子と三人で暮らしてます。本当はあともう一人、子どもが欲しいんです。あの、キーシャがもう一人欲しいって言ってたから、それで……。



 ――キーシャって、あなたの旦那さん?



 いえ、違うんです。キーシャは私の幼馴染で、親友なんです。



 ――何で親友が子ども欲しがってるからって、それに合わせる必要があるのよ。



 私、何でも彼女と一緒が良いんです。一緒だと安心しますし……、うまくいくんです。



 ――どういうこと?



 だってキーシャはとっても美人で明るくって皆から好かれてて……、私、そんなキーシャみたいになりたいんです。

 だからキーシャが村で一番の学校に行くって聞いて、私、すっごく勉強しました。そしたら、私もその学校に受かったんです。親も、とっても喜んでくれました。


 キーシャとの学生生活はとっても楽しかった。

 彼女と同じノートで、同じペンを使うと、嘘みたいに成績が上がるんです。彼女と同じにすればするほど、私の運気が上がっていくようでした。



 ――ふぅん、そういうものなのね。



 魔女さんにはわかりませんか?



 ――あたし、ここから一歩も出ないし、友達だとか、そういうのもいないのよね。

 ――何だい、テナ。僕がいるじゃないか。

 ――プーヴァは友達じゃないもの。大事な相棒でしょ?

 ――そっか。そうだったね。



 私達は、ほぼ同じ時期に恋人が出来ました。

 偶然にも、彼らは同い年で背格好も似ていて、その上、教師という同じ夢を持っていました。


 ――へぇ、随分と出来過ぎた偶然ね。



 私達は卒業すると、ほぼ同じ時期にその恋人と結婚しました。私とキーシャはお隣同士なのですが、どちらも婿に入ることになり、以前と変わりなく私達の関係は続きました。まぁ、婿入りといっても、両親と同居などということはなく、実家の敷地内に家を建て、そこで暮らすことになったのです。


 やがて、キーシャの妊娠がわかりました。ここまでお揃いで来たのですから、当然、私も妊娠しなくてはなりません。



 ――当然しなくちゃならないのかしら。

 ――僕、白熊だからわかんないや。



 少し時期はずれてしまいましたが、私も無事、身ごもることが出来ました。しかしここで問題が起こったのです。キーシャの子どもは男の子だったのですが、どうやら私の子は女の子のようでした。



 ――あれ、さっき、息子さんって……。

 ――そうよね。旦那さんとと三人暮らしって。



 残念でしたが、娘は諦めることにし、私は再度妊娠しました。今度こそ男の子です。同い年にならなかったことがいまでも悔やまれます。

 きっと、そのせいなんです。



 ――諦め……たんだ……。

 ――そのせいって、何が?



 運気が下がってしまったんです。我が子を完全に『お揃い』に出来なかったことが原因です。少しずつ私達の歯車が狂ってしまったんです。


 昨年のことです。せっかく旦那同士の職場も同じ国営の中等学校勤務だったのですが、主人が村営の小さな初等学校に移りたいと言い出しました。

 何でも、昔から少人数のクラスでじっくり生徒達と向き合いたいと思っていたのだそうです。

 私は断固反対しましたが、主人の意志は固く、結局、職場を変えてしまいました。


 これでは完全な『お揃い』ではありません。

 私は正直、主人に失望しましたが、それでも教師という点ではまだ『お揃い』ですから、我慢することにしました。


 そんな中、半年前、キーシャが村の若い男性と一緒にいるのを目撃しました。どうやら、だいぶ親密な関係のようで、ご主人が不在の時に家に招いたりもしているようでした。なので、私も村の若い男性に声をかけ、男女の関係になりました。



 ――そんなところまで『お揃い』にするのね……。

 ――徹底してるね。



 そのうち、キーシャと彼の関係はご主人の知るところとなりました。リビングで彼とキーシャの家族が話しているところを見たんです。その若い男性はキーシャの息子を膝の上に乗せていました。成る程、こういう家族の形もあるのかと思い、私も彼の存在を主人に打ち明けました。

 しかし、キーシャの家庭のようにはなりませんでした。私は主人に罵倒され、一時は離婚とまで言われましたが、キーシャが離婚したというならともかく、そうでないのであれば、私が離婚に応じる理由などありません。不本意ではありましたが、私は親からお金を借り、謝罪の形として主人に慰謝料を払うことで何とか許してもらいました。


 そして最近になって、キーシャが第二子を望んでいることを人づてに聞いたのです。



 ――人づて? 親友なのに、本人から聞いたわけじゃないの?



 お互いの家庭が忙しく、なかなか学生の頃のように時間を取ることが出来ないんですよ。外で偶然見かけても、立ち話をする時間もないようで、足早に去ってしまうのです。



 ――まぁ、家庭を持つとそうなるのかな。仕方ないよね。



 それで、私も主人に二人目が欲しい、と言いました。しかし、彼は私が若い男と関係を持っていたことを蒸し返し、それを頑なに拒むのです。その件はお金で解決したはずなのに! 早くしないと、また子どもの年が離れてしまいます。次こそは産み月も揃えたいのに!



 ――えー……っと、それじゃあ、あなたは自分の旦那さんに二人目の子どもについて賛成してほしいってこと? それがあなたの望み?



 そう……ですね……。でも、出来れば、それだけじゃなくて、これから先もずーっと彼女と『お揃い』でいられるようになりたいんです。

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