決戦用人形兵器
シンヤは、突然呼び出された地下格納庫の鉄橋の上で、巨大な金属の塊を前に、ただ呆然と立ち尽くした。
「父さん、これは何なの?」
「ロボットだ」
一段高いところから見下ろすように立つ父は、静かにそう言い放った。
「ロボットなのは見ればわかるよ。なぜこんなものがあるのか、って聞いてるんだ」
「お前が乗るんだ」
「……? 何を言ってるんだ父さん」
「そこにコックピットがあるだろう。乗れ」
「何年も前に出ていったっきりで突然連絡を寄越したと思ったら、ここは何なんだよ! このロボットは何なんだ!」
「いいから乗れ。さもなくば、帰れ」
「なんで乗らなくちゃいけないんだよ」
「それがお前の使命だからだ」
「使命……?」
「ああ。使命だ。……ちなみに言っておくが、乗らなかったらお前の大事にしてるフィギュアのコレクションがどうなっても知らんぞ」
「……わかったよ。乗ればいいんだろ乗れば」
フィギュアコレクションをどうにかされてはたまらない。
シンヤは全く腑に落ちないまま、コックピットのシートに身を埋めた。
動かし方は……わかる。
小さい頃、あの親父とロボットごっこをしまくっていたときのコックピットのレイアウトそのままだ。
「準備はいいか」
インカムを通じて聞こえてきた親父の声に、少しげんなりしながら「ああ」と短く答える。
「射出しろ」
「シグナルオールグリーン。射出シーケンスに入ります」
格納庫に響く人工音声。すると巨大ロボの乗ったエレベータが、強烈な勢いで上昇を始めた。
猛烈なGに耐え、数秒。視界が一気に開ける。
そこは、人口の縮小によって捨てられた街に作られた、巨大な演習場だった。
「いいか、これから演習を行う。敵はいくつかのロボットだ。銃やナイフを使って殲滅しろ」
インカムから伝わる親父の指示。
銃は……ゴーグルの照準と右手のスイッチ。ナイフは左右の足のあたりにあるからこれを引き抜いて使えばいいな。
「活動限界は3分だ。始めるぞ」
言うが早いか、左前方のビルの影から、一体のタンク型ロボットが現れる。
「……! ロックオンされた!?」
ゴーグルには相手のロボットからロックオンされたという表示。
シンヤは慌ててその射線上から退避する。
刹那、さっきまで自分のいたその場所に、大きな爆発が起こる。
「え……!?」
シンヤの背筋に、嫌な汗が流れる。
「おい親父!」
「司令官と呼べ」
「うるせぇ! なんだこれ、実弾なのか?」
「当然だろう」
「演習だって言っただろ、さっき」
「実弾を使った演習だ」
「当たったら死ぬだろ、これ」
「そういう事もあるな」
「ふざけんな!」
言いながら、ニ射目を回避。向こうの射撃精度は高い。ちょっとでも油断したら撃たれる。
「……っていうか、そもそもだ」
「なんだ」
「きょうび、人工知能は十分に進化してる! ロボットに人が乗る必要がどこにあるんだよ!」
銃を構え、相手のロボットに向かって走り出す。虚を突かれたのか、相手の動作が一瞬緩慢になる。その瞬間を狙って射撃。見事にその頭部と砲を吹き飛ばした。
「機械じゃ駄目なんだ」
「何が駄目だってんだ! 人間のほうがミスもするし精神的な攻撃で動揺したりする。ちょっとした衝撃やらGで気絶したりするかもしれねぇ。人が操縦してるって事は、そこが弱点です狙ってくださいって言ってるようなもんだろうが」
次に出てきたのは3体の飛行型ロボット。動きの軌道は直線的でシンプルだが、いかんせん早い。銃で撃ち落とすは少々骨だ。
「駄目だ」
「どうしても人じゃなきゃ駄目だってんなら、先読み予測を使えば遠隔操作でだって十分なコントロールできるだろうが!」
飛行ロボットがこちらに向かってくるタイミングを見計らって、大きく跳躍。
さすがにGがきついが、なにくそ、とナイフを取り出し、一閃。3体の飛行ロボットが爆炎を上げて見事に破壊された。
「遠隔操作では、甘えが出る」
「自分の命がかかってないと真剣にならないってか? まず乗るのが命がけっていう前提がおかしいだろうが! 安全に配慮しろ!」
次に現れたのは、自身と同じ人型のロボット。おそらくはシンヤの乗る機体の試作機、というところだろう。
「人が乗ることが重要なんだ」
「何が重要なんだよ! っていうかそれ以前にな」
しばしにらみ合う。が、先手必勝だ。シンヤは駆け出して一気に距離を詰めると、そのまま背後に駆け抜けた。そこで振り向きざまに相手の弾丸を一気に叩き込む。
「なんだ」
「戦争とかないこのクソ平和な時代に、こんなロボット作るのに何の意味があるってんだ!」
盛大な爆炎を上げながら、敵ロボットが倒れた。と、同時に、インカムから誇ったような父親の声が響いた。
「男の趣味とロマンだ!」
シンヤは、心の底からげんなりした。
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