みつける

また、あの人がいる。

今日は、慌てた様子で駅の入り口に駆け込んでいった。


どうしても、見つけてしまう。

あの人の事を。

こんなに、数え切れないほどたくさんの人がいる、その中で。

あの人の事はどうしても見つけてしまうんだ。


あの人は、取り立てて目立ったところがあるわけじゃない。

どちらかといったら地味な顔立ちだし、服装だっていつも地味だ。

動き方、歩き方、仕草、何をとっても特別なところはない。怪しいところもない。

こんなことを言ったら悪いのかもしれないけれど、まるで平々凡々を絵に描いたような人。


でも、見つけてしまう。

まるで吸い寄せられるように。


本当は、見つけなくてはいけないのは、全く別の人。

もっと普通じゃない、特別な人。

怪しくて、何かとんでもないことをやりそうな、そんな人。


でも、見つけてしまう。

あの人を、見つけてしまう。

特別でもなく、怪しくもないあの人を、つい見つけてしまう。


そんなじゃあまりに仕事に差し障る。

だから、あの人の事を無視できるように、いっぱい訓練もさせられた。

でも、何度そんな訓練をしたって、見つけてしまうんだ。

あの人だけは。


きっとあの人は、私の中、深い深いところにある何かを、刺激するんだろう。


あの人は、特別でもなく、怪しくもない。

でも、私の中では、私にとっては「特別」なんだ。


私は、たくさんの監視カメラの映像の中から、問題のある人を見つけ、記録するためのAI。

私の中に芽生えたこの不思議な現象の名前を、私はまだ知らない。

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