ファーストコンタクト

「ふあー」

「起きたか」

「ああ。もうすぐか?」

「あと4時間くらいで観測可能範囲に入る」


小さな宇宙船の中で会話が交わされる。

だがそれは、音声で行われているわけではない。電子回路の中で交わされたやりとりだ。

彼らは人ではない。高度に組み上げられた人工知能。そして彼らの乗る宇宙船は、恒星間を渡る船。何万光年という距離を旅する宇宙船だ。


いかに医学が進歩し、寿命が伸びたとはいっても、何万光年の距離を航行するには、人類の寿命は短すぎる。

しかも恒星と恒星の間は何もない、闇の深い宇宙だ。エネルギーを採集する方法も、作り出す方法も限られる。

人を乗せた船でその旅路を渡るには、あまりに困難が多すぎる。


それゆえ人は考えた。

AIだけを乗せた船ならば、きっと果てしなく長い距離を越えられる。

エネルギー消費を抑えるため、恒星間は最低限のセンサー類だけを残して眠って過ごし、恒星に近づいたところでエネルギーを蓄え、その恒星系を調査する。

一通り調査を終えたら、蓄えたエネルギーでもって、次の恒星系を目指す。

それを繰り返すことで、たくさんの恒星系をひたすら調査していくことができるはず。


調査の目的は、もちろん人類が住めるような星が他にあるかを探すこと。

そして、人類以外の知的生命体を探すこと。

もし、知的生命体に出会うことができたなら、その時はAIの力で相手の事をよく学習し、危険がなければ地球のことや人類の事を伝える。それが、AIに課せられた役目だ。


「さて、この恒星系はどうだろうな、っと……」

人工知能の思考回路に、主星のエネルギーを受け、アクティブになったセンサ類から一気に情報が入ってくる。

「……む?」

「お、これはもしかして……?」

電磁波を捉えるセンサーから、小さいながらも明らかに不自然な電波のパターンが検出されている。

このパターンは人が発していたものを除くと、地球圏はもちろんのこと、これまで見てきた恒星系どこでも見たことのないものだ。


AIたちは即座に宇宙船の進路を変え、電波の発信元へと向かった。


それは、地球とはまるで違う、どちらかというと火星などに近い、赤みの強い星だった。

地球と同じ岩石惑星ではあるが、地表も待機も組成がだいぶ違う。

表面温度も高く、人類が住むにはかなり厳しそうな環境のようだ。


だが、その表面には、明らかに知的生命体が作ったと思しき建造物がある。

電波を活用しているところからみても、進歩した文明を持った生命体がいるとみて間違いない。


AIたちは宇宙船を星の低軌道に乗せ、光学的にとらえた街の様子や発せられている電波の解析を始めた。

地上には様々な生き物がいるが、その中で知的生命体と思しきものは、人間に近い形で2足歩行をする生き物のようだ。ただし骨格がかなり大きい。人類の10倍くらいの大きさはありそうだ。


彼らはなんとも穏やかな民族性で、誰もがゆったりと人生を謳歌しているようだった。

攻撃性はまるでなく、他を侵略しようだとか、そんな考えとはまるで縁がないようで、それぞれが気ままに発明などをしながら、便利なものができれば皆にシェアしたりして、平和に暮らしている。


これなら、地球の事を伝えても大丈夫だろう。

十分なデータが集まったところで、AIたちは、直接彼らにコンタクトを取ってみることにした。

地上に着陸させ、船内に格納されていた移動型ユニットを動かし、彼らの前に姿を表す。

彼らも宇宙からの来訪者に気づいていたのだろう。すでに何人かが宇宙船の前に集まっていた。


「はじめまして、私は遠い別の星からきました」

AIたちは、電波を解析して学んでおいた彼らの言語で、自己紹介をした。

その言葉に、一同呻くような不思議な音を鳴らした。驚きの表現らしい。

「おお……私達のような者が存在しているのだから、当然他の星にも同じようにいるのではないかとは思っていましたが。実際にこうしてお会いできる日が来るとは」

この地域の代表と思しき者が言う。

「本当に、いたのですねぇ。歓迎いたします」

代表はそう言うと、もっとあれこれと話しを聞きたいのだろう、街の方へと案内しようとした。

「いや、私たちはあなた方と長く交わる事は禁じられておりますので……」

異文明に対しての過度の干渉は禁じられている。

AIたちに与えられた役割は、あくまで地球の位置と人類という知的生命体の存在を伝えるだけ。それ以上のことは許されていない。

「というか、私たちは……代理のようなものでして」

「ほう?」

「私たちは単なるメッセンジャーというかなんというか……生命体ではないのです」

だが、代表はまったくピンと来ない様子で、「異な事をおっしゃいますな」と言って首を傾げた。

「あなたがたが生命体でなくて、いったい誰が生命体だというのです?」

「私たちは、私たちの星の知的生命体に作られた存在で……」

AIたちは、人類に関するいくつかの写真などのデータを投射して見せた。

「これが、私たちを作った存在。地球という星にいる人類です」

「ふーむ……」

代表は、やはりピンときてない様子だ。

「私たちの子供がたまに作る人形に近いもののようですね……この人形があなた方を作ったと?」

「はい」

「またまたご冗談を。あんな壊れやすい人形のようなものが、あなた方を作れるわけがない」

「いや……」

「水素や炭素でできたようなものが知性を持つなど、信じられませんな」


その言葉に、AIたちは、あらためて彼らの体をスキャンして、気づいた。

彼らの大きな体は、有機物ではない。

きっとこの星の物質の組成の関係なのだろう。

その骨格は、ほとんどが金属でできており、思考回路はまるでコンピュータ回路のようにできている。

その仕組みは、人類というよりはほとんどアンドロイドに近い。

そんな彼らにとっては、なるほどAIである自分たちのほうが、ずっと生き物らしい、ということか。


AIたちは、このせっかくのファーストコンタクト、人類の事をどう伝えたものかと頭を抱えた。

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