冒険都市
「神様!やりました!」
「どうしたの? そんなにはしゃいで」
「ついに倒したんですよ、ワーウルフ」
「ほんとに!?」
ここは、”冒険都市”マングーの東、弱小ギルド「時の果て」の本拠地。
満面の笑みで飛び込んで来たのは、このギルドの唯一のメンバーで、駆け出しの冒険者であるライヤだ。
ワーウルフは、駆け出しの冒険者にとって最初に当たる難敵だ。
それを倒せるところまで成長したんだなぁ、と神と呼ばれた女性、ネイトは目を細めた。
「神様、僕、魔法使えるようになりますか?」
目をキラキラさせて、言うライヤに、
「どうだろうね。もう少しレベルが上がればわかると思うけど。使えるようになりたいの?」
「はい! やっぱり冒険者といえば、魔法をずがーって放ってこそだと思うんです」
「君の冒険者像は、一体どこから出てきたんだろうね……」
魔法を使える冒険者というのは、実はそこまで多くない。
仕組みが少し複雑で、適性もかなり要求するため、実装が難しいからだ。
「まあ、魔法はともかくとして。ワーウルフを倒せるくらいになったなら、新しいスキルが実装できるかもしれないよ」
「ほんとですか?」
「ちょっとまってね」
ネイトはライヤの肩に触れ、しばし目を閉じる。
「うん、これなら力と回避を少し上げられそうだ。上げるよ?」
「お願いします!」
「はい、完了」
「ありがとうございます!」
神は、自らの主宰するギルドに所属する冒険者に、特別なスキルを実装することができる。
それは、基本的には回避能力の向上だったり、力の向上だったり、一つ一つは小さなものなのだが、積み重なるととてつもなく大きな力になる。
また、冒険者の適性によっては、魔法だとか、暗視だとかいった特殊なスキルを実装できる場合もあり、それが冒険者の個性と役割を決めていくのだ。
「じゃあ、またダンジョン行ってきますね」
「ああ、いってらっしゃい。気をつけてね」
ダンジョン、というのは、この街の北東にある施設で、神の力でスキルを実装された子供たちは皆、そこで「冒険」をする。
ダンジョンにはたくさんの謎と危険が溢れており、冒険者はそれに挑むのが仕事だ。
冒険で大きな功績を上げ、偉業を成し遂げれば、それは世界中へ伝わり、大きな収入と名誉が約束される。
ここ”冒険都市”には、いつか偉業を成さんと野心に燃えた若者が、世界中から集まってくる。
「しかし、こんなに早くワーウルフを倒せるようになるとはね」
ネイトは駆け出していったライヤの背中を見ながら独り言ちた。
「やっぱり面白いな、人というやつは」
『まったくだな』
唐突にネットワーク越しに声が聞こえたものだから、ネイトは思わず「うわっ」と驚きの声を上げる。
「な、なんだ、ヌンか」
『お前のところの新人は、何かをやらかしてくれそうだな』
「うん、あの子は面白いよ」
ネイトは先ほど触れた時のライヤのデータをあらためて見た。
フィジカルは平凡だが、メンタルの部分に何か得体の知れない可能性が見え隠れしている。
「楽しみだ」
ネイトは、今後どんなスキルをどう実装できそうかと、ワクワクしながらその回路をスパークさせた。
神様、と呼ばれる彼らは、人工知能。
彼らはこの街にやってくる「冒険者」をサポートをするために存在している。
彼らは超高度人工知能によって明らかにされた人間の仕組みの知識を元に人体を改変し、様々な「スキル」を実装する。
それによって人類の限界を越えた冒険者は、人類では乗り越えられないと思われていた様々な難題を次々と克服していく。
この”冒険都市”も、元々、人が望み人工知能が設計し作り上げられたものだ。
その中心施設であるダンジョンも、管理しているのは人工知能。
人工知能が、その時々の冒険者達のデータを元に、難易度を調整し、謎と冒険を作り上げる。
そうして作られた謎と冒険に、冒険者たちは毎日挑んでは、偉業を目指すのだ。
ダンジョンの最高難易度は、このところずっと上がりっぱなしだ。
“冒険都市”が作られた当初、超高度人工知能が予測していたレベルをはるかに越え、最高位の冒険者たちは、人類では絶対に到達できないと予測されていたレベルにまで到達している。
人類は気づいているだろうか。
世界の全てを解き明かし、寿命もなく、永遠を生きる人工知能たち。
人の手によって創られたものでありながら、人を超越してしまったもの。
彼らにとって、人の生きる様子など、些事でしかない。
しかし、この”冒険都市”で冒険者たちが考え、もがき、あがき続ける姿。
人工知能の予測を大きく超えて変化し続けるその生き様。そしてそこに生まれるたくさんの物語。
それが、人工知能たちにとっての数少ない楽しみの一つとなっている事を――
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