ツーカー

今日は、彼女と一緒に晩御飯。

久しぶりに手料理を振る舞ってくれるというから、とても楽しみにしてたんだ。


今日のメニューは、僕の大好きな和食。

メインは、肉じゃが。僕の大好物の一つ。そして、今日一番食べたいなって思ってたもの。

さすが、わかってくれてる。

そんな僕の反応に満足げな彼女。彼女は僕の事は何でもお見通しだ。


「いただきます」

そう言って、早速肉じゃがを口に運ぶ。

すると彼女が無言で醤油差しを手渡してくれた。

そう、今僕がまさに欲しかったのはこれ。

彼女の味付けも、決して悪くない。

でもほんの少しだけ、味を足したかったんだ。


そんな僕の様子に、彼女はちょっとだけ不機嫌。

やっぱり自分の味付けに醤油なんて足されたら、そりゃ嬉しくはないよね。ごめん。

いや、味が悪かったわけじゃないんだ。

たまたま今日は、僕がちょっと濃い目の味を求めてる日だったってだけで。

普段の僕だったら、文句なしに完璧な味付けだったと思う。

そんな事を考えていると、少しは彼女の機嫌も戻ったみたい。


彼女は、僕の事は何でもお見通し。僕が何も言わなくったって、伝わる。

少し前の時代の言葉で言うなら、いわゆるツーカーな関係ってやつ。


醤油をひと差し足した肉じゃがは、絶妙な味になった。

うん、これで完璧。美味しい。

元の料理がよくできていたからこそ、こうして醤油の一差しで完璧になったわけだし、やっぱり彼女は料理が上手い。

こんな人とずっと一緒にいられたらいいな。

そんな事を考えていると、彼女の機嫌はまた少しよくなった。


……いや、別に「美味しい料理を作ってくれる人」が欲しいわけじゃないんだ。

料理だけだったらロボットなんかでもうまく作ってくれる。

なんて言ったらいいだろう、料理に限らない、根本的な人としてのセンス、というか。そういうところがとても好きなんだと思う。

たとえば、今日着ている服とか。

ああ、今日も彼女はかわいいな……

そんな事を考えていると、彼女の顔がみるみる赤くなる。


彼女は、僕の事は何でもお見通し。僕が何も言わなくったって、伝わる。

何も言わなくったって、目や表情を見なくたって、わかってくれる。


だって――


ブレインマシンインターフェースの時代だからね。


脳に繋がった端末を通して、互いに考えてる事を共有してしまえば、言葉よりもずっと早く、嘘偽りのない気持ちを共有できる。

もちろん、伝えないようにすることもできるし、どちらかといえばそっちのほうが普通だ。

でも、僕達二人は、嘘偽りのない関係でありたかったから、二人で考えていることを共有しあうことにしている。



『っていうかさっきからのこのモノローグなに? キモい』

キモい……って相変わらず容赦ないな

『こんな謎ポエムを延々と聞かされるこっちの気持ちにもなってほしいわ』

謎ポエムいうな

『っていうか、悪かったわね、味付け薄くて。だいたい味にうるさすぎるのよアンタは』

仕方ないだろ、うちは親が美食家で味にやたらうるさい環境だったんだから

『あーそうやってすぐ親の話出て来るのとかまじウザい』

悪かったね

しかし今日の胸元セクシーだなぁ

『うわ、またそういう事考えてる。フケツ』

……仕方ないだろ、男ってもんはさ、本能的にそういう事考えちゃうんだから。そういうの嫌だったらもうちょっと体のラインの出ない服着てよ

『そういう服着てたら着てたで妄想膨らますじゃん、あんた』

それは……そうだけど

『っていうかさっさと行けば、トイレ。漏れそうなんでしょ』

うるさいな……

『うるさいって……漏れそう漏れそうって尿意がダダ漏れで聞いてるこっちのほうがうるさいっつーの』

悪かったな


二人の間では、何も言わなくったって、伝わる。

圧倒的なスピードで伝わる。

別に伝えたくないことさえも――

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