欲しいもの
「わかったか?」
「だめ……」
夜遅く、食卓を囲んで渋面になっている夫婦。
「欲しいものくらい、聞く事できないのか?」
「だって、それ聞いたらサンタさんいないってバレちゃいそうだし……それにあの子が本当に欲しいもの言ってくれるかどうか」
「そうだよなぁ」
もうすぐクリスマス。二人は息子へのプレゼントについて相談しているところだ。
例年ならもうとっくにプレゼントを買って、息子にバレないよう、隠し場所なんかを工夫している頃なのだが。
今年は一体何をプレゼントするかもまだ決まっていない。それもこれも……
「まさかデータ共有をオフにされるとはなぁ…」
手元の端末をいじりながら、眉間の皺を深くする父親。
これまでは、息子が欲しがっているものなんて、息子のサポートAIに聞けばすぐにわかった。
サポートAIというのは、それぞれの人に専属でつくAIのことだ。ウェアラブル端末やアンビエント端末など、様々なところを経由してそれぞれの人を見守り、サポートしてくれる。彼らは常に人の体調や見聞きしたもの、考えていること、感情などの情報を収拾しているので、その人が欲しがっているものなんかも当然「知って」いる。
だから、サポートAIの力を借りさえすれば、クリスマスプレゼント選びなんてお茶の子さいさい……だったのだが。
残念ながら今年はその手が使えない。
なぜなら息子のサポートAIの情報へのアクセス権がないからだ。
一般的に、子供が小さい間は、サポートAIの持つ情報に親は自由にアクセスできる。
だが、一定の年齢に達すると、親の過剰な干渉や監視によって子供の自立心を阻害されないよう、子供が自分の意思で親との情報共有をオフにできるようになる。
共有がオフになると、心身の不調など問題のあるときを除いて、親であっても子供の情報を勝手に見ることはできなくなるのだ。
今年の後半に入ってから、息子は情報共有を急にオフにしてしまった。
だから、息子が一体何を考え、何を欲しがっているのか、それが今は全くわからない。
オンにするように何度か言ってはみたのだが、今のところオンになる気配はない。
仕方がないので、家で遊んでいる時の様子や、学校から共有された学校での行動の様子など、アクセスできる範囲のデータで解析を試みているのだが、やはり外から見えるデータだけでは情報が足りなさすぎる。欲しがっているものを判定するには、やはり感情だとかいった、内面に近いデータが必要だ。
「反抗期ってやつかなぁ」
「それには早くないかしら……」
息子はまだ小学生だ。確かに反抗期になるには早い。
それに、学校での評価だとか、いろいろな解析AIの解析でも、素直でいい子だといつも評価されるような息子なのだ。反抗心からやっている事だとは思えない。
「とりあえずもう少し探ってみてくれ。俺ももう少しいろんなデータ当たってみる」
「わかったわ……」
そしてあれよあれよという間に数日が経ち、いよいよクリスマス前日。
やはり二人は渋い顔で向き合っていた。
「だめ。わからない」
お手上げ、というポーズを取りながら言う母親。
「こっちもダメだ。まるきりわからん」
父親のほうも打つ手なし、という表情で、一つ大きなため息。
「プレゼントどうしよう。わからないから何もナシってわけにもいかないし…」
「……仕方ない。とりあえず今の男の子が欲しいものをリサーチしてそれを渡して、駄目だったらサンタのせいってことにして、あらためて何か買おう」
「そうね、そうしましょう…」
父親は自身のサポートAIに最近の息子の年代の子供が欲しがるようなものをリサーチさせると、その中から一つ見繕って発注した。急ぎの配送料金含めて無駄になるかもしれない出費なのが痛いところだが、何も用意できないよりはずっとマシだろう。
その夜、息子は靴下を枕元にかけながら祈った。
「サンタさん、僕のことをAI経由じゃなくよく見て、よく話を聞いてくれる両親がほしいです」
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