能力

「誕生日おめでとう!!」

友達に囲まれ、僕はケーキに立てられた16本のろうそくの火を吹き消した。

今日は僕の16歳の誕生日。

この歳になって誕生会というのもなんだか照れくさいけど、友達が企画してくれてこんな会を開けるのは素直に嬉しい。

「さて、16歳になった今のお気持ちをどうぞ」

コーラの瓶をインタビュワーのマイクよろしくこちらに向け、そんな事を言ってきたのは親友のエイジ。お調子者だが、情に厚い、いいヤツだ。

「そうだなぁ……今年こそは彼女作る!」

「わはは、お前色々といいもの持ってる割にほんとモテないもんな」

「るせーよ」

自分で言っておいてキレてれば世話はないが、実際モテないのだから仕方ない。

エイジの言う通り、スペック的な意味で持ってるものは悪くないはずなのだけど。

生まれてこのかた彼女はおろか、女の子と友達にすらなったことがないのはなぜだろう。

なんとしてもこの16歳の1年で、彼女を作るぞと――去年も同じ事を心に決めたような気もするが――新たに胸に刻む。


「で、新しい能力のほうはどうよ」

別の友達が言う。

誕生日の重要なイベント、「能力解放」。

僕らの世代の子供たちは、誕生日に新しい能力が解放されるようになっている。

……って書くと、なんだかファンタジー世界とかSFみたいだけど、そういうことじゃない。

脳や神経系、遺伝子など様々な事が解明された現代、幼い頃に脳や肉体に様々なものを組み込んでおくと、優れた能力を得ることができるのだ。

たとえば「優れた運動センス」とか「頭の回転のよさ」とか、「危機回避能力」とか「ストレス耐性」とかいった、生きていく上で役立つ能力。そういったものを、小さい頃にインストールすることができる。

とはいえ、それぞれの能力は、組み込んですぐ使えるようになるわけじゃない。身につけるのに適した年齢というのがある。たとえば肉体が未熟な状態で「ものすごい運動センス」を得てしまうと、能力に肉体がついてこられずに大きな怪我や障害を負う事になりかねない。

それゆえ全ての能力には能力がアンロックされる日が設定されており、成長度合いに合わせて能力が解放されるようになっている。

で、ほとんどの親はそのアンロックの日を誕生日に設定しているので、誕生日イコール能力解放の日、というわけだ。


さて今回、16歳で解放された能力はどんなものだろう。

体を動かしてみたり、色々と考えてみたり、あれこれと調べてみる。

すると、ちょっとした違和感のようなものに気づいた。

「これは……」

なんだろう、以前よりも頭の中が色々とスムーズに流れているような、そんな感覚。

思考がなんだかクリアで、スッキリしている。

「あー、もしかするとこれかな。なんでもいいからちょっと問題とか出してくんない?」

「問題? じゃあそうだな……2492×924は?」

「2302608」

「おお、すげぇな。ってことは……?」

「何かちょっと頭良くなったっぽい」

「まじか」「すげー」

友人たちが口々に驚きの言葉を口にする。

能力解放で頭が良くなった、という話はそういえばあまり聞いたことがない。

もしかしてだいぶレアな能力をセットしておいてくれたということなのか。

そんな裕福な家でもないのにこういうところでは妥協がないあたり、さすがうちの親だ。


「ってことは、ここまででお前の解放された能力は……」

「『よい姿勢』『高い基礎体力』『優れた運動センス』『紳士的な振る舞い』『音楽センス』『異性とうまくやっていく力』で、あとは今回の『頭良くなる』だな」

「すげぇな、やっぱお前の親はいいセンスしてるわ。俺なんて1番最近解放された能力、『嗅覚が敏感になる』だぜ? 何に使えってんだ」

悔しそうに言うセイジ。セイジの解放された能力は全て知ってるけど、わりとみんなネタ枠というか、どう使えばいいのか困るものばかりなので同情を禁じ得ない。

「しかし、つくづくこれだけの能力揃えてもらってモテないお前って不思議だよな」

ニヤニヤしながら言うセイジに、「うるせぇ」って言いながら、でも内心で深く同意する。

だって、解放された能力はモテ要素満載だ。今回開放されたものを加えればフルコンボ。

頭がよくて運動できて、音楽できて、紳士的で異性とうまくやっていけるって、なにこの完璧超人。

身長だって平均よりは高めだし、運動部だから体だって鍛えてるし、スペック的には文句ないはずだし。

もはや女の子にモテないほうが難しいのでは……?


僕は16歳のこの1年で何としても彼女を作る……それがダメならせめて女友達を作るぞ、とあらためて心に決めた。


◆ ◆ ◆


それから1年の月日が流れ、17歳の誕生日。

相変わらずの男むさい顔ぶれに囲まれながら、僕はケーキにささった17本のろうそくの火を吹き消した。

…という書き出しでおわかりだろうが、相変わらず彼女どころか女友達の一人もできてはいない。

以前より頭の回転もよくなり、成績も上がったし、学級委員とか生徒会役員とかそんなこともやった。

それでもまったくモテる気配はなく、何度か自分からもアタックしてみたのだけど全部フラれた。

『異性とうまくやっていく力』はあるから、女の子と話ができないとかそんなことは全くないし、女の子から嫌われる事はない。でも、そこからもう一歩「仲良くなる」「好かれる」という事がない。


となればもう最後の望みは「能力解放」だ。

17歳の今回が、最後の能力解放。

これまであれほどモテそうな能力が解放されてきたのだから、きっとこの最後の能力によって最後のピースがハマり、僕は劇的にモテるようになるに違いない。


さて、今回はいったいどんな能力が解放されるんだろう。

1年前と同じように、体を動かしてみたり、色々と考え事をしてみたりする。

でも、特に大きな変化は感じない。

これまではわりとすんなりと何が変わったか分かったものだったのだが、今回は本当にわからない。

親父は17歳まで解放される能力があると言っていたし、全く何もないということはないはずなのだけど。

ああでもないこうでもないとしばらく試行錯誤を繰り返し、

そして、部屋をウロウロと動き回って、ふと部屋の隅にあった鏡を見た瞬間、悟った。

「……そりゃモテないはずだわ」

僕が最後に得た能力、それは――

『鏡をちゃんと見て現実を受け入れる能力』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る