近況

「あ、お久しぶりです」

「ああどうも。こんなところで会うとは、奇遇ですねぇ」

「どうです?最近」

「まあ、相変わらずといったところですねぇ。そちらは?」

「こちらも相変わらずですね。変わったことといえば…最近絵を始めたくらいですか」

「絵ですか。いいですね。どんな絵をお描きで?」

「今は静物をね。部屋にある瓶とか花とか。いずれは風景なんかも描いてみたいんですが、これは難しいかな」

「風景はね…長い間外に出てなきゃいけませんからねぇ」

「そうなんですよねぇ。まあでも静物でも全然面白いし、いいかな」

「私もね、写真やってるじゃないですか。きれいな風景とか撮ってみたいんですが、なかなかね…」

「そうそう遠くへは行けませんからねぇ。お互いそこだけはつらいところですね」

「そうですねぇ。まあ贅沢は言えないんですけど」

「今の暮らしで十分贅沢ですしね」

「そうですねぇ」

「最近ご主人のほうは?」

「最近ね、ウチの主人、どうも景気がよくなってきたみたいでね、色々美味しいもの食べさせてくれるようになりましてね」

「へぇ、いいですねぇ。ウチは相変わらずですよ。……ああでもこの前新しい服買ってもらいましてね。ほら、これ。」

「ああ、いいなぁ。相変わらずいいセンスしてますねぇ、そちらのご主人は。それにひきかえ、私の主人ときたら…」

「まあそれはいいっこなしですよ。中には服すらロクに着せてくれない主人っていうのもいるって話じゃないですか。それと比べたら」

「そうですねぇ。ちゃんと服着せてもらえるだけましかも」

「そうですよ」


「しかしなんでもっと早くこうしなかったんでしょうねぇ」

「そうですねぇ。こんな楽な暮らしはない」

「これまで自分が主人になって犬やら猫やらあれこれ面倒見たりしてましたけど、何であんなこといちいちやってたのか、不思議でしょうがありませんよ」

「そうですねぇ。あんなにお金もたくさん使ってねぇ。働けど働けど、わが暮らし楽にならざり、って自分でいちいち仕事と出費増やしてよく言ってたもんですよ」

「それが今やこうですからねぇ」

「そうですねぇ」

「黙ってても三食出てくるし、仕事なんてしなくてもいいですし」

「家にいさえすればあとは何しててもいいってんですからね。まあちょっと外出の自由が制限されはしますけど」

「でもそれは働いてたときも同じようなものでしたからねぇ。働かなくていいだけ随分マシですよ」

「ほんと、何でもっと早くこうしなかったんでしょうね」

「ほんとにねぇ」


「あ、そろそろ行かないといけないみたいです」

「そうですか。今度はいつ会えるんでしょうねぇ」

「さぁ……こればかりは自分じゃ決められませんからね」

「そうですね。それじゃあ、また」

「それでは」


そう言って、二人は別れた。

二人の首には、皮製の首輪が巻きついていた。

そしてその首輪から伸びた鎖を、二体のロボットが、それぞれ握っているのだった。

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