第4話

「片付けは店を休みにしてやろう」

 嵐の後の静けさだけが残る散らかった店内で、酒瓶の破片を拾い集める吉野に秋谷は言った。「もう今日は家に帰ろう。疲れたろ?」

 うん、と吉野は首を縦に振る。秋谷は店の明かりを消した。近づいてくる吉野の腰に手を回しその身体を寄せると、扉を開けて外に出る。

「ごめんね。こんなことになっちゃって」

 吉野は顔を伏せたままだった。

「いいんだ。別にヨシのせいじゃないよ。腹が減ったしコンビニでも寄って帰ろう」

 平日の朝四時前。新聞配達員くらいしか街で見かける人はいなかった。目の前には新しく出来た空の駐車場。新小岩の朝が賑わっていたことはバブル時代も含めてなかったが、建物が次々と駐車場に変わっていくのはどこか寂しい出来事だった。

 無言で歩く二人は、共に返す当てのない金のことばかり考えていた。

 コンビニに入ると、店員が吉野と秋谷を見て怪訝そうな顔をする。三十過ぎの男二人が身体を密着させているのだ。それもしょうがないし、いつもの事なので吉野も秋谷も気にはしなかった。

 二人は牛乳をカゴに入れるとアイスを品定めし始める。

「クッキー&バニラ、復活してるじゃない、ねぇアキ見てよ」

 吉野はクッキー&バニラを手に取り、アキの頬に近づける。アイスをみた途端、吉野の機嫌は直ったようだった。

「わかったよ。わかった。ちょっと貸してみ」と、秋谷は吉野からクッキー&バニラを取り上げる。「これラクトアイスじゃん。食べたら太るぞ。ダイエット中だろうに」

「いいのよ。ちょっとくらい。毎日、一口ずつ食べるわ。約束する」

「嘘吐け。この前だって、ウィンナーを焼かずに食いついてたろ」

 そう言いながらも秋谷はクッキー&バニラをカゴに入れる。ついでに自分のためにガリガリ君も中に入れた。

「さすがアキちゃん」

「今日だけだから」

「ツンデレって奴でしょ? わかってるんだから」

「なんだよ、それ」

「ツンツンデレデレってことよ」吉野はにやける。「ツンツンデレデレ」

「意味がわからない」秋谷は厭きれた。「会計してきなよ」

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