第3話
「期限の日はまだかと思うのですが…」秋谷が言った。
高坂はバーカウンターに土足で上がっている。その右手にはバールが握られていた。
「いつのことだよ」
高坂はカウンターの内側に下りると、棚にある酒瓶を一つ掴み対面の壁に向かって思いきり良く投げつけた。目の前で突如繰り広げられた暴力の前で吉野と秋谷はただその風が収まるのを見ていることしか出来なかった。壁際に並んでいるテーブルの上の一つに、酒瓶の残骸とその中身が炸裂している。「何黙ってボケッとしてるんだよ、掃除しろよ、お前らの店だろ」
「こんなこともう止めて貰えないかしら?」
吉野が言った。
「それなら金を出せよ。手間取らせやがってこの野郎共が。おめぇらが引っ越したことを伝えねぇからわざわざ店まで出向いてやったんだぞ」
高坂の行動は悪意で満ち溢れていた。高坂は持っていたバールで棚に並ぶ酒を叩き割る。「スーツの裾に酒が飛び散りやがった」と、高坂は呟くが実際はそんなことを気にしていないように、次々と酒瓶を破壊していく。
「お前が女なら、身体で払わしてやってもいいんだけどな。お前は、クソホモ野郎ときた。クソが出てくる穴にイチモツを入れるなんて、童貞でも間違ってるって気づくってもんだよ。そんなクソホモ野郎が、俺の会社で金借りて返さねーと来たもんだ。しかも、出す為の穴には入れたがるくせに、うちの会社の口座には金を入れねぇ。こんなホモ臭い店はいつ潰してもいいんだよ。わかってるのか?」
「わかってるよ」
秋谷が答えた。
「生意気な口聞くんじゃねぇ! いいか? 期限は三日後だぞ。お前らわかってるのか」
高坂は吉野と秋谷にバールを向ける。「お前らが知らないなら教えてやるけどよ、俺たちは地獄にでも取り立てにいくぜ。何がなんでも金は払ってもらうからよ。金はねぇとかぬかしてみろ、臓器でも何でも、この世で金にならねぇものはねぇんだからな、わかってるのか? 三千万だ。三日後。必ずだぞ」
「わかりました」秋谷が言った。
「おめぇもわかってるのかよ? 肛門拡張機の相方」
「わかった」吉野が無表情で答える。
「カマ掘り野郎共が…」
高坂は酒で濡れた手を洗うと、水を出しっぱなしのままカウンターに入った時のように土足で上にあがり外に出る。「じゃ、三日後、事務所で待ってるから」
吉野と秋谷は道を開ける。二人の間を高坂は黙って通り抜けて扉を蹴り明けて、店から出て行った。
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