第2話

ぐずる長髪の男をタクシーに乗せるて見送りして振り返ると、秋谷と吉野の前に紫色のスーツを来た坊主の男が立っていた。細い目で耳には大きなダイヤのピアスという出で立ちは人目で、普通の生き方をしていないことがわかる。

「よう」と男が言った。「店はまだやってるか?」

「これは高坂さん」

 秋谷の表情は硬直していた。それは吉野も同じだった。

「店はまだやってるのか?って訊いたんだけどよ」

 高坂はCLOSEというプレートが掲げられた二人の店、クラシックの扉を一瞥する。

「まだやってますよ。一杯どうぞ」

 吉野が笑顔で扉に近づき開く。高坂は何か呟きながら、吉野が開けている扉の近くにあるクラシックの看板を蹴り倒した。明け方が近い朝の張りつめた空気が漂う新小岩の裏通りに、プラスチックが割れる音が響くと、看板の破片が歩道に飛び散る。吉野と秋谷は、黙って看板とその破片を見つめた。

 店の中からは早速、「きたねぇ、店だな。ホモの香りがしやがるよぉ」という高坂の大きな声が聞こえた。


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