第4話

 その二日後、山本の事務所に一通の封筒が届く。封筒を開けたのは、長年秘書を勤めた秋谷の仕事だった。献金スキャンダルが明るみになってからその類の郵送物が多くなっていたこともあり、山本はそれが自分の議員人生の週末に追い討ちをかける一打になるとは少しも思っていなかった。

 封筒に入っていたのは幾つかの写真と短い文章のプリントされた紙、そしてあるフリーカメラマンの名刺だった。

 秋谷は知っていた。

 何故、SMプレイに興じる山本の姿がそこに写っているのか。

 秋谷は冷静だった。封筒に入っていた五枚の写真を一枚ずつ確認して、それらを纏めて裏返して机に置く。脅迫文の文言をチェックする。


『どこかの週刊誌に送るより前に、先生に拝見して頂きたくて。問題があれば同封の名刺にある連絡先まで』

 

 秋谷は全てを綺麗に封筒に戻すと立ち上がり、山本に近づいた。

「先生、お時間です。お車を回すので、ご準備を」

 秋谷と山本のスケジュール、どちらにもどこかへ出かける予定などなかった。山本は秋谷の表情と手に持っている封筒を見て、事態を把握した。

「もう、そんな時間だったか」緩慢な動きで山本は動き出した。コートを羽織って帽子を被ると、後はよろしく、と他の秘書に挨拶をして山本は事務所を出た。秋谷もその後ろに続いた。無言で議員会館の廊下を歩く二人。エレベーターで一階に降りる間も、二人の間には沈黙しかなかった。外に出るとお車を取ってきます、と言い残し秋谷は山本を置いて駐車場に向かう。

 連日低くなる気温だが、まだ息が白く染まるほどではなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る