第2話

 フリーカメラマンの吉野は普段、成人雑誌用のポルノ写真を撮っていた。かつては名のあるスタジオに所属し自分の撮った写真が有名ファッション誌の表紙を飾ることもあったが、ギャンブルで信頼を失くし、気がつけば橋桁で深緑のスカートを自ら捲くり上げて陰部を露出する三十路の女性を撮っていた。カメラに対する情熱は当の昔に失せて、週末のレースやパチンコなどで増減する財布の中身に一喜一憂する生活を送っている。

 そんな彼の携帯が鳴ったのは、いつものように歩道橋で全裸になりブリッジをしている女性をファインダーから覗いている時だった。女性の首筋は無理な体勢を続けているからか太い血管が浮き出ている。

「もしもし」

 吉野はファインダーから視線を外し、久しぶりに見るその名前の主からの電話に出る。

「久しぶりだな。今、大丈夫か?」

「仕事中だけど」吉野はブリッジの体勢の崩しで仰向けになり、全裸のまま空を見ている女性を見る。「少しなら大丈夫」

「今日、夜、時間があるなら会って話がしたいんだけど大丈夫か?」と電話の主は言った。

 吉野は少し考えた振りをしてから「夜九時以降ならなんとか」と返事をした。パチンコ以外に予定のない吉野の虚栄心から吐いたささやかな嘘だった。

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