ある日、誰かがどこかで
大芝燐
第1話
週刊誌に山本が地元建設会社から多額の献金を受けているという記事が出たのは丁度、一週間前の月曜日だった。それからというもの、昼間のワイドショウは与党の幹事長を勤めたこともある山本文雄一色に染まってしまい、山本は不本意な形で知名度を上げることとなった。
山本は地元岡山県議員から国政に進出した叩上げの議員で、良くも悪くも昔気質な人間だった。その記事を読んだ山本は、証拠の写真が掲載されているにも関わらず、議員によくある否定とも肯定とも取れる煮え切らない態度を取り、事が収まっていくのを待つわけでなく、この一週間マスコミの記事を真っ向から否定し続け、彼に対する批判の火に油を注いでいた。
事実無根とマスコミに一貫して繰り返しているその言葉が嘘であると誰もが信じていた。
その証拠に地元岡山の自宅や、都内に持っているマンションに訪れる報道陣たちの数が減ることはなかった。そんな中でも山本は気丈に振舞い続けていた。
しかし、それももう限界を迎えようとしている。
その微妙な山本の変化を見逃さなかったのが、彼の公設秘書を務める秋谷という男だった。
秋谷は、東京地検が今回の巨額献金とは別件で山本の立件について動いているという情報を本人に伝えた時に、彼の口から不意に出た溜め息を見逃しはしなかった。
事務所で斜陽に写されたそのシルエットは、これからの凋落を表しているようだった。
山本は叩けば幾らでも埃が出てくる。それは長年、山本の秘書を勤めてきた秋谷だって同じ事だった。その事実が山本を追い詰めているのだろう。そうか、とだけ頷いた山本にかつての勢いは感じられなかった。
秋谷は、それをきっかけに彼に見切りをつけた。
その日から、秋谷は動き始めた。
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