第3話 物事には側面がある?
聖奈が吹奏楽部に入ってもう三週間が経った。
聖奈は今、どうなっているでしょうか?
そう。"お嬢さま聖奈"スキルが毎日百パーセント発動中でございます。
スキル発動のせいで、部員達はイライラが増す日々を送っていらっしゃいます。
勧誘したのは私ですが、イライラしております。あはははは。
おや、丁度、今、聖奈が調子に乗って自慢話をしているようですね。
覗いてみましょう。
「クラリネットってね、木管楽器なんだけど、結構簡単なんだよ! (以下略)」
うん、勘違いだね。吹奏楽舐めてるのか。ど阿呆。ピッチ取れてない初心者は引っ込んでろ。
このように、調子に乗っていらっしゃるので、吹奏楽部メンバー一同は、腹を立てています。以上、現場からでした。
***
千鶴が入って二週間くらい経った。今は中間テスト期間。テスト期間中は、部活が休みなんだ。
あれから陽香里はあれから会話はほぼ無いし、聖奈は先生に数学を教えてもらうため、今日は一人で下校中。暑すぎて何もやるきが無い。
同じ夏服を着た女の子がいる。
黒髪で後ろで一つに縛っていて、メガネ女子。
あ、森 薫(もり かおる)だ。その子は、クラスも部活も同じで、ホルンを担当。そこそ、いや、かなりホルンが上手い。昔からよく話し合ったり、愚痴や秘密話をしたりする仲なんですよ〜。ちなみに、去年のクラスでターゲットされて、クラスメイトから存在を消された――いや、自ら一人になった――省かれた過去をもっているの。そして、その主犯格は、聖奈なんだよね……。
前言撤回。薫のビビり顔が唐突に見たくて、やる気が漲ってきた。
よし、驚かせてやる!
抜き足差し足で薫に気づかれないように歩く。あと二、三歩のところで一気に走る。
「よっ」
「はいはい」相変わらずの受け流しスキルだな。
「前から気づいてたよ。足音で分かる」
よかった。いつもの薫だ。
というのも、去年は元気がなく、毎日しんどそうだったの。前はこんな感じでツンツンしてなかった。『何も考えたくないから近寄るな』って言われて、話しかけても空返事しかしなかったな。
「えーちょっとは驚いてくれてもいいじゃん」
「はいはい」って言って、少し薫の笑顔が見えた。うん、可愛いな、おい。
その後、話が盛り上がって、私の家に薫を招待して、遊ぶことになった。
「いきなりお邪魔して大丈夫なの?」と、玄関に着いたとき、薫が聞いた。
「大丈夫よ。うちの親、仕事でいないし。ほら、どうぞ」と、言いながら玄関のドアを開けた。
「そっか。じゃぁ、お邪魔します」
薫を二階の自分の部屋に入ってもらった。私は一階に戻り、カラン、と氷が音がする麦茶とお菓子を一緒に運ぶ。
「ありがとう」と、少し照れながら言う。やっべえ、可愛い。心臓止まる!救急車!
「どうもいたしまして」
それから、カバンから教材を取出し、喋りながら宿題をする。
「ねぇ、〇〇が野球部でまた騒動起こしたらしいよー」
「うわーマジか。アイツも懲りねぇな」
などの噂話。
「ねぇ、転校生の大塚っているじゃん?カッコイイと思う?」
「んーそこら辺の田舎者よりはまだマシ。でもそこまでカッコイイとは言えない」
「えーあれはカッコイイよ」
カッコイイかカッコよくない男子の話。
「まぁ、所詮、学校なんて小さな箱だよ」
「それな。校舎が小さな箱としたら、生徒は……キャラメルかな」
「いや、麦チョコでしょ」
「袋詰めじゃん」
シリアスな話と笑い話。
ここまで深く話せる人は、下手したら薫だけかもしれない。この小さな箱の中で、毎日腹の探り合いをして、見つける事が出来た。何でも話せるという訳でもないけど、毒舌を受け入れてくれて、且つ価値観が同じぐらい。そして、スパイの仲間みたいに、裏で繋がれる重要な人な存在と言える。この子は大切にしたいと、実は心の奥で思ってる。
「ねぇ、千鶴」
「なに?」
「前にさ、傍観者が楽しい的なこと言ってたよね?」
「え?あ、うん」覚えてないけど、まぁいいや。
「覚えてないのか……。まぁ、いいや」薫は少し溜息を吐いた。
あら、バレてるわ。さすが長年の付き合いはあるね、薫ちゃん!
「あのね、傍観者になる為は大切なことがあるの」
「は?」え、いきなり?ダメだ、詳しく聞かないと。
「大切なことってなに?」
「それはね、物事には側面があるってこと」
ついにコイツ頭がおかしくなったか。
「え?どういうこと?説明して」
「それを言ったら学習しないよ。自分で気づいて」
薫の表情は笑ってるように見える。けど目が死んでいる。
やば、ガチなやつじゃん。怖っ。
「は、はい」
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