第2話 当事者

 よく考えたら、A、B、Cちゃんの設定で説明したことが、そのまま私達そっくりになってきたじゃない。


 うわー。楽しくねぇ〜。

 客観的に見れないから楽しくないじゃん。

 つまらない。当事者になると心底面倒だ。



 時は流れもう昼休み。

 私は聖奈と廊下に出てだべる。


「ねぇ、吹部って楽しい?」

 聖奈が唐突に聞いた。


「え、まぁまぁかな」


 私は続けた。


「顧問はいい人だし、部活自体もハードじゃないよ。程よく吹奏楽を楽しむ程度だよ」


 聖奈は真顔で目を輝かせた。


「え、楽しそう。入ろう」


「え?あー……じゃぁ、見学に来る?」


「うん。今日行く。湯本先生に言ってきていい?」


 唐突だな、おい。


「うん。良いけど、ちゃんと『急なことですみませんが……』ってお断りしておくんだよ」


 こうでも言わないと絶対相手が不機嫌になるよね。


「はーい。千鶴お母さん! 」


「いつ聖奈のオカンになったんだ私は」



 あーこれはメンバーから恨まれるな。

 先に謝っておこう。ごめんなさい。だって仕方ないじゃん。入りたいって言うんだから。貴重な入部希望者を逃すためには行かないでしょ?あのお嬢様も言い出したら言う事聞かないし。



 --断る勇気を持ちましょう。バイ作者。



 今日はなんとか無事部活を終わることができた。

 そして私達は一緒に帰ることになった。陽香里を誘おうと思って声をかけたけど、聖奈に無視され、そのまま帰ることになった。



 次の日。いつもの通りの普通の朝のはずだった。



 というのは、何故か陽香里がいくら待っても来ない。そりゃ、休むことだってあったけど、こんなふうに、何も連絡がないというのは、例外。

 

 結局ギリギリまで待って、残り時間三分前になんとか着いた。陽香里は待っても来なかった。


 息を切らし、汗だくで重いカバンを机の上に下ろした。一段落して、ふと、周りを見渡すと、斜め後ろに陽香里がいた。



 は? 何で?何で陽香里が先に来てるのよ。これどういうこと? 何がしたいの? 今日は早目に行くって先に連絡しろよ。


 こっちは来ないのにギリギリ遅刻しかけるまで待ってて、何でそんな涼し気な顔してるのよ。


 そう思うと、無性に腹が立つ。

 腹の中は、怒りが半分、残り半分はあとは何故連絡しなかったことが分からず、モヤモヤした気持ちになった。



 その疑問を朝読書の時間に、本を読まずに考えたら、何となく分かった。


 --陽香里は、私と離れたんだ。


 これは、"あなたともう行動しない"というメッセージ――いや、聖奈と私が行動するのが気に入らない――どちらにせよ、陽香里なりの珍しい、裏メッセージ付きの行為だということには、間違いない。



 なら、そうしよう。



 2時間目の休み時間、次の授業が移動教室の理科だ。

 いつもなら、聖奈と陽香里がいるけど、今日は、聖奈だけ。


「今日、陽香里と来てなかったね」

 聖奈がボソッと右側で耳打ちした。その声の語尾にクスクスと笑う声が混じっていた。


 クソッ、陰険な女め。性格の悪さが滲み出ていますよぉ〜。

「あ、うん。」


「何かあったの?」

 あざとい目をして聖奈が聞いた。


 この時、唐突にこのことを誰かに相談したくなった。

 第三者の意見が欲しい。じゃないと、イライラが止まらない。


「……じ、実はね」

 私は聖奈の耳に手を添えて、耳打ちをした。内容は今までの経緯を言った。



「……えっ、ホント?! 」

 口を抑えて聖奈は驚いた。


「……うん。」


「そっか……。じゃぁ、一人ぼっちだね」


「……う、うん」


 ひ、一人ぼっち……?

 聖奈が言ったそれはどういう意味で言ったのか分からなかったけど、そのままにしておいた。



 その日から、陽香里と行動を共にすることはほぼ無かった。






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