第25話 夏の幻

たちこめる緑の匂い

じっとり汗ばむ手のひら

するりすり抜ける夏は

消えない傷を刻みつけた


傷口から流れ落ちるのは

透き通った水色の涙で

大地に降り注ぐたびに

小さな川となり流れていく


この熱に抱かれたまま

跡形もなく溶けてしまいたい

ささやかなそんな願いさえも

夏の幻と消えて


ただ胸の鈍い痛みだけが

確かな存在感を残す

暑さと湿気と蝉の声に囲まれた

人気の無い路地裏の道で


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