助っ人登場
「さすがに今のは堪えたね……けど、それだけだ」
前に突き出していた両手を腰にやり、「俺」がにやりと笑う。
今、聖剣が放ったのは最強の一撃のはず。その最強の一撃でさえ、「俺」は倒せなかった。
じゃあ、「俺」を倒すにはどうしたらいい?
「ははは、さすがにショックだったかな? 最大の攻撃が効果なかったとなると、もう手も足も出ないってところかな?」
くくく、と笑みを零しながら「俺」が言う。
「『セカイノタマゴ』に『セカイノキテン』。おまえたちが日々成長しているように、オレたちだって成長しているんだよ。我が眷属たちは以前、おまえたちの白光刃によって倒されたが、今回はそれに耐えることができたようにね」
そうだ。前回近未来世界へ行った時、下水道にいた黒いイモムシを先ほどの「すっげえ光の剣」で、何とか消滅させたのだ。
だが、今回は違った。おそらく見えない障壁を使ったのだろうが、黒い「俺」は「すっげえ光の剣」に耐えきってみせたのだ。
そういや、先ほど「俺」は「すっげえ光の剣」を「
それはさておき、「すっげえ光の剣」改め「白光刃」は聖剣最強の技。それを防がれたのは間違いのない事実であり、真正面からのぶつかり合いはこちらが不利ということ。
なら。
なら、真正面からぶつからなければいいだけだよな。
そうだろ、
心の中で手にした聖剣に問いかければ、聖剣がぶるりと震えて応えてくれた。
どうやら、俺たちの意見は一致したみたいだ。
さあ、まだまだ敗北が決まったわけじゃない。何とかして「俺」の防御を崩して一撃入れてやろうぜ!
「カスミ……先ほどからシゲキ様は何を一人で話しておられるのですか?」
「おそらくだけど、茂樹さんは『あいつ』と何か話しているのだと思う。私たちには何も聞こえないけど、茂樹さんには『あいつ』の声が聞こえているようなの」
「『あいつ』とは、あの黒いシゲキ様のことですよね? あれは……あの黒いシゲキ様は、マリカ様がおっしゃる『害虫』なのでしょう?」
「うん、そうだと思う。あの『害虫』の声が聞こえるのは茂樹さんだけ。それはきっと、茂樹さんが聖剣の正当な持ち主だからじゃないかな?」
「だから、わたくしたちには聞こえないのですか……」
何とか「俺」の隙を窺っていると、背後で香住ちゃんとミレーニアさんの会話が聞こえてくる。
そういや、俺だけ連中の声が聞こえること、まだ詳しく説明していなかったな。今度、店長も含めて香住ちゃんたちにも話しておかないと。
と、そんなことを考えていたら、突然俺の体が動き出した。もちろん、聖剣が操っているのである。
そして、その直後に俺がいた場所が爆発。あいつ、見えない爆撃を使いやがったな?
その後も、高速で移動する俺の跡を追いかけるように、連続して爆発が起こる。
「ほらほら、ぼけっとしていると爆発に飲み込まれるよ? 速く走れ、走れー」
にこやかに笑ってはいるが、決して攻撃の手を緩めることのない「俺」。
だけど、こっちだってただ逃げ回っているわけじゃない。何となくだけど、俺にも聖剣の考えていることが分かる。それぐらい、俺たちは一緒に何度も修羅場を潜り抜けてきたからね。
とにかく、今は逃げの一手あるのみ!
樹々が生い茂る森の中を、俺は必死に走り抜ける。
時にはいつものように見えない足場を作り出して空中を走り、時には樹々の幹を蹴って急激な方向転換をして。
必死に走って「俺」からの攻撃を躱していく。
「俺」は見えない爆撃だけではなく、見えない斬撃も放ってくるので、ただ走ればいいってものじゃない。下手したら、こちらから斬撃へ突っ込みかねないからね。
まあ、その辺りは俺の体を操っている聖剣先生任せなわけだけど。でも、実際に走っているのは俺の体なわけで、走り回って体内の酸素が足りなくなってきたのか、はあはあと自分の呼吸がいつも以上にうるさく聞こえ、ついでに頭も痛くなり始めてきた。
たとえ聖剣に強引に走らされていても、俺の体が生身である以上はどうしたって限界というものがある。
頼むぜ、聖剣。俺が限界を迎えるまでに、何とか「俺」を倒してくれ。
正直、今の状況はかなり苦しいんです。
その後も、俺は森の中を駆け回った。
いい加減、俺も限界だ。
「はははははは! いつまでそうやって逃げていられるかなぁ? そろそろ限界なんだろ?」
一方、「俺」はとても楽しそうだ。向こうは一向に疲れる様子もなく、見えない攻撃を放ちまくっている。あいつの見えない攻撃って、体力とか消費しないの? そもそも、俺たちとは全く別の生き物だから、疲れるとかないとか?
いやいや、さすがに疲労ぐらいはするだろう。するよね?
と、突然俺が……いや、俺の体が方向を変えた。向かう先は──え? 「俺」?
おいおい、聖剣。まさか、真正面から突っ込む気か?
俺の心配をよそに、聖剣は真っすぐに「俺」を目指して疾走する。
「あれぇ? もしかして、玉砕覚悟の特攻ってやつ? だとしたら、ちょっと君たちのことを買いかぶっていたかもしれないねぇ」
相変わらず粘つくような笑みを浮かべる「俺」。いやいや、俺も正面から特攻するつもりはないですよ?
だけど聖剣は何を考えて…………ええい、俺が
うん、自分で言っていてちょっと情けないけど、事実は事実だからな!
真っすぐ突っ込む俺に向けて、「俺」は見えない斬撃を連続で放ってくる。その斬撃を走りながら全て弾いていく。
「さすがは『セカイノタマゴ』と『セカイノキテン』だ! オレの放つ攻撃をこうも見事に防いでくれるとはね! だけど……これはどうかなあっ!?」
「俺」が右腕を大きく薙ぎ払うように振る。同時に、奴の前の空間がゆらりと揺らいだように見えた。
何、今の? 一瞬、何かが見えたような…………もしかして、あれが見えない斬撃なのか?
その空間の揺らぎは物凄い速度で俺へと近づいてくる。揺らぎの幅も大きく、目算で横5メートル、高さ2メートルぐらいはあるだろうか? もしもあれこそが見えない斬撃そのものだとしたら……さすがの聖剣でもあれはヤバくね? 弾くには大きすぎるだろ?
とにかく、ここは回避だ! とはいえ、見えない斬撃が大きいので、ただ横に跳ぶだけでは……あ、あれ?
突然、俺の視点が変化した。
それまで、「俺」を真正面から見ていたのに、今は横から「俺」を見ている。まるで、瞬間移動でもしたかのように。
巨大な見えない斬撃は、先ほどまで俺がいた場所を駆け抜け、その向こうにあった樹々を薙ぎ倒していく。
そちらへ視線を向けることさえ忘れて足を止め、思わずぼけっと「俺」を見つめてしまう俺。そんなことができるのは、「俺」もまた初めてその顔に驚愕を浮かべながら俺を見ていたからだ。
「い、今のは…………ま、まさか瞬間転移か……? 『セカイノタマゴ』はいつの間にそんな能りょ──」
突然、奴の言葉が途切れた。その目を大きく見開きながら、「俺」がゆっくりと自分の背後を振り返る。
そこには。
いつの間にか、香住ちゃんとミレーニアさんがそこにいた。二人は手にした剣を、背後から「俺」へと突き刺して。
剣の切っ先が二つ、「俺」の胸から生えていた。
あ、あれ? よ、よく見れば、二人が持つ剣が再び聖剣の姿になっているぞ……?
「わ、私たち……」
「どうしてここにいるのですか……?」
一方で、「俺」を貫いた香住ちゃんとミレーニアさんも、何が何だか分からない様子だ。気づけば、自分の剣が再び聖剣へと変じていて、「俺」を背中から貫いていた、という感じだ。
い、一体、何が起きているんだ? こ、これ……これも聖剣先生の力なのか?
俺と「俺」、そして香住ちゃんとミレーニアさんの四人は、状況が全く理解できていない。そのため、硬直したかのようにその場から動くことさえできない。
そんな俺たちの耳に、聞いたことのない声が響いた。それも、まだ年端もいかない少年の声が。
「それはオレがちょっと力を貸したからに決まっているだろ? それより、早くそいつに止めを刺したらどうかな、お兄さんたち?」
俺、「俺」、香住ちゃん、ミレーニアさんの都合八つの目が声のした方へと向けられた。
そこには。
見た目10歳ぐらいの白金色の髪をした少年がいた。
腕を頭の後ろで組み、まるでソファに座って寛いでいるかのような姿勢で……宙に浮きながら。
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