未知じゃない遭遇




「あれ? 茂樹?」

 香住ちゃんとミレーニアさん、二人と一緒に町を歩いていると、突然名前を呼ばれた。

 反射的に振り返れば、そこにいたのは大学の友人である「四十しじゅうの顔を持つ男」こと山田りょうすけと、「シャイアン」こと郷田たけしだった。

 俺たちが遊びに来ているのは、この町で最も人の多い場所であろう、とある大型ショッピングモール。ミレーニアさんにこっちの「小世界」のことを理解してもらうため、まずはこっちで売られている物などを説明しようと思ってここに来たわけだ。

 まさか、ここでこの二人に出会うとは。まあ、これだけ人出の多い場所なので、ばったり出くわしても不思議じゃないけどさ。

 この場にもう一人の友人、「トクミツ」こと徳田みつはるがいないのは、間違いなく自分の彼女さんと一緒にいるからだろう。

 きっと今頃、トクミツは彼女さんと、どこかでいちゃいちゃしているに違いない。

「よう、亮介とシャイアン」

 片手を上げながら、友人たちに応える。

 不思議そうな顔で俺を見ている香住ちゃんとミレーニアさんに、「大学の友人だよ」と説明すれば、香住ちゃんは納得顔で頷いたけど、ミレーニアさんは首を傾げるばかり。

 ああ、そうか。彼女には大学と言っても分からないよね。

 でも、何と言ったらミレーニアさんに納得してもらえるだろうか? 当然ながら、アルファロ王国に学校制度なんてないだろうし。ないよね? あっちに学校とか。

 俺がそんなことを考えているうちに、亮介とシャイアンが俺たちの方へと近づいて来た。そして、ようやく俺の連れに気づく。

「あ、あれ……? お、俺、昼間っから夢見ているのかな?」

「あ、ああ。俺も夢を見ているようだ。だ、だって……」

 亮介とシャイアンの視線が、俺、香住ちゃん、ミレーニアさんの間で激しく揺れ動いている。

「し、茂樹が女の子を連れて歩いているだと……?」

「し、しかも、二人も……さ、更に片方は金髪美少女……? はははは、これ、絶対夢だって」

 チミたち、本人を目の前にして、結構失礼なことを言っていないかね?



 亮介とシャイアンの足を思いっきり踏みつけた後、俺は二人に香住ちゃんとミレーニアさんを紹介した。

「ああ、このが例のバイト先で知り合ったっていう彼女だったか。言われてみれば、確かに以前見せてもらった写真の女の子だ。いやぁ、写真よりも現実の方がずっと可愛いね」

 おいこら、亮介。しれっと人の彼女をナンパするんじゃない。一方、もう一人の友人であるシャイアンは、顔を真っ赤にしてちらちらと香住ちゃんとミレーニアさんを見るばかり。

 うん、「シャイアン」の名前は伊達じゃない。こいつ、恥ずかしくて香住ちゃんたちに話しかけられないんだな。

 シャイアンは仲のいい友人相手なら結構饒舌なのに、見知らぬ人が相手だと途端に寡黙になるからなぁ。特に、同じ年代の女の子だとそれが顕著になるんだ。

「あ、あの、初めまして。私、森下香住って言います。茂樹さんとは、そ、その……」

 香住ちゃんも、恥ずかしそうに自己紹介する。うんうん、彼女のこういうところ、本当に可愛いと思います。

 だが、問題はミレーニアさんだ。一応、こっちの世界では店長の親戚という設定にしようと話し合ってはいるのだが……。

「皆様、ご機嫌よう。わたくし、ミレーニア・タント・アルファロと申します。この度はちょっとした縁で、この国を訪れております。以後、よろしくお見知りおき願いますわ」

 と、プリンセスパワー全開で挨拶してくださいました。王女なんて立場にいたら、見知らぬ人を相手にするのはお手の物かもしれないね。

 だけど、問題はそこじゃなかった。ミレーニアさんは、とんでもない爆弾を投下してくださったのだ。

「そ、それで、えっと……ミレーニアさん? ミレーニアさんは、茂樹とはどのようなご関係で?」

「わたくしですか? わたくしは、シゲキ様の現地妻ですわ」

 にっこりと。そして堂々と。

 ミレーニアさんはギガトン級の爆弾を投下して下さりましたよ。ええ。

「み、ミレーニアっ!! あ、あなた、突然何を言い出すのっ!?」

 ぽかんと俺たちを見ている亮介とシャイアンを他所に、香住ちゃんがミレーニアさんに食ってかかる。もっとも、当のミレーニアさんは涼しい顔だった。

「あら、マリカ様から、シゲキ様との関係を誰かに聞かれた時、こう答えればいいと教わったのですが……何か間違っていましたか?」

 いや、ミレーニアさん。間違っていましたかって聞くけど、今のって確信犯でしょ、絶対。



 その後、ミレーニアさんとの関係をしつこく追及してきた亮介とシャイアン。

 二人の追及は、ミレーニアさんがまだ日本語に不慣れだから、よく意味も分からない言葉を使ってしまったという理由でごまかした。

 もちろん、ミレーニアさんは聖剣の影響で日本語を理解しているだろうから、意味が分からないなんてことはないけど。

 どうやら亮介とシャイアンには、金髪美少女であるミレーニアさんがいたくストライクゾーンだったらしく、熱心に自分をアピールしていたな。

 自分のスマホの番号やメルアドを教えようとしたり。もちろん、スマホもメルアドも理解していないミレーニアさんは、首を傾げるばかりだったけど。

 しかも、ついでとばかりに香住ちゃんの連絡先まで聞き出そうとしやがったので、ちょっと強めに蹴飛ばしておいた。

 最近、トレーニングを欠かしていないこの茂樹さんの蹴りである。本気で蹴ったわけではないし、何か格闘技の心得があるわけでもないのだが、それでもそれなりに痛かったのだろう。

 「シャレにならんぞ!」と文句を言っていたが、人の彼女の連絡先を聞き出そうとする方が悪いのである。少なくとも、俺的には。

 で、その二人なのだが、どうやら行かなくてはいけない所があるらしい。ミレーニアさんと香住ちゃんに未練ありありの態度を示しながら、すごく残念そうに立ち去っていった。一体、どこに行く予定なのか、ちょっと気になると言えば気になるな。

 なお、後日聞き出したところによると、この日二人が向かったのは知人に女の子を紹介してもらう予定だったらしい。

 もしかして、いわゆるところの「合コン」という奴だろうか?

 あの二人に声がかかったのは、もちろん特定の彼女がいないからだろう。俺やトクミツには彼女がいるからね!

 ちなみに、紹介された女の子とは、結局上手くいかなかったそうだ。何でも、紹介された席で「ついさっき、金髪美少女と知り合いになっちゃってさー」と自慢したからだとか。そりゃ失敗するよ。折角女の子を紹介してもらったのに、その場で他の女の子の話題出したらさ。

 あいつら、そんなことも分からないのか。それとも、ミレーニアさんと知り合いになれたのがそこまで嬉しかったのか。

 まあ、人の彼女の連絡先を聞き出そうとするから、そんな目に遭うのだよ。ざまーみろ。うひひ。

 ………………今度、何か奢ってちょっとだけ慰めてやるとしよう。うん。



「茂樹さんのお友達、楽しそうな人だったわね」

「ええ、カスミの言う通りですわ。わたくしの国では、珍しいぐらい賑やかなお二人でした」

 名残惜しそうに立ち去る二人の背中を見送りながら、香住ちゃんとミレーニアさんが言葉を交わす。こうして見ていると、まるで以前からの友人のようだ。

 でも、二人の胸中ではお互いをどう思っているのか……俺も当事者であるが、できればあまり触れないでいたいなぁ。

 少なくとも、俺はミレーニアさんにはっきりと気持ちを伝えたし、今後も彼女とどうにかなるつもりはない。

 俺が変なことさえしなければ、このままいい友人としてやっていけると思うのだが……こういう方向の経験値はゼロだから、何とも言えないんだよねぇ。

 ともかく、ミレーニアさんとは友人としての範囲を越えない節度ある付き合いを。

 うん、それがいい。そうしよう。そう決めた。

 一人決心した俺に、二人の美少女が振り返る。

「じゃあ、茂樹さん。まずはどこへ行きますか?」

「シゲキ様は、わたくしたちをどこへエスコートしてくださいますか?」

 楽しそうな笑顔でそう尋ねてくる二人。

「そうだなぁ。ミレーニアさんにこの国のことを知ってもらうのが先決だから、まずは……」

 どこに行こうかと考える。そもそも、ここに来た理由として、アルファロ王国にはないような物を、たくさんミレーニアさんに見て欲しかったからなんだよね。流通の豊かさは、国の豊かさに通じると思うから。

 まあ、今日ここへ来るまでに、ある程度この国のことは見せられたとは思うけど。

 さて、まずはどこへ行こうかな?









~~~ 作者より ~~~

 現在、仕事の方が立て込んでおりまして、来週はちょっとお休み。

 次回の更新は2月12日となります。


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